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地上げ屋が語る“立ち退き”の実態

10/10(木) 22:09配信

BEST TIMES

   不動産屋の地上げに苦しむ老舗の飲食店が「いくらお金を貰ったって出て行かないよ!」と啖呵を切るシーンはドラマやマンガでおなじみの光景だ。
 こうしたフィクションの影響もあり、今やすっかり「地上げをする側=強者」「地上げをされる側=弱者」という図式が定着してしまった。

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 果たしてそれは真実なのか。地上げは絶対的な悪なのだろうか? 

 そんな疑問から、普段は悪者扱いされることが多い不動産業者の声を聞いてみたくなった。取材を進めるうちに、〝弱者〟としての立場を活用しているとも解釈できる、いくつかの企業の存在が浮き彫りになってきた。

|立ち退き料の相場って? 

 「立ち退き料って、いくら払うと思います?」

 喫茶店で待ち合わせた不動産業者のSは出し抜けにそう言った。
 「店舗だと家賃の40カ月分。場合によっては100カ月分ぐらい払うこともあるんです」
 30代のSは、いわゆる「地上げ屋」のイメージとは程遠い、ごく普通のサラリーマンといった風貌だが、その道のプロらしく目の奥は決して笑っていない。Sは続ける。

 「地上げと言うと悪いイメージですけど、実際は数千万、下手したら数億円のお金を払わないと出て行ってもらえないんです。無理やり立ち退き?   そんなことしたら、すぐに警察行きですよ」

   おや、ずいぶんイメージと違う。なかなか立ち退かない店舗にダンプカーで突っ込んで追い出すのが地上げの仕事かと思っていたのだが…。
 それにしてもなぜ立ち退き料がそんなに高いのだろうか。

 「戦前の政策決定が影響している」
 そう語るのは、都内の大手不動産会社に勤務するDだ。

 「日中戦争の前後は、戦争需要で都心部に人口が流入したため、貸家の空室率が大幅に低下していました。当時は今よりも遥かに大家の立場が強かったのです」

 そこで当時の政府は賃借人を保護することを目的として、大家に「正当な事由」がなければ建物の明け渡しを認めないとする借家法の改正を1941年(昭和16)に行った。

 「これがいわゆる『普通借家契約』と呼ばれるものです。この契約では、貸主側は建物が著しく老朽化しているなどの『正当な事由』がなくては明け渡しを請求することが出来ません。この制度が令和になった今でも続いているんですよ」

 Dによると、裁判などで正当事由が認められるケースは少なく、さらに認められた場合においても、貸している建物を明け渡してもらうためには、借主側が納得するだけの立ち退き料を支払う必要があるという。
  もちろん、長年営業してきた場所を追われる事業主からすれば、もらえるお金は少しでも高いほうがいいに決まっている。

 「その通りです。お金の問題だけではなく、慣れ親しんだ土地への愛着から首を縦に振らない人もいる。そういう方に誠心誠意、粘り強く交渉して一つずつ権利をまとめて新しい街をつくっていくのが我々の仕事。地道で大変ですが、やりがいも大きいです」(D)

|立ち退き料で儲けるという戦略

 一方で「守られた借り主」の立場を利用し、老朽化したビルに入居しては立ち退き料を得ようとする事業者もいるという。
 「コーヒーチェーンのR、蕎麦チェーンのF、居酒屋チェーンのMあたりが業界では有名です」とは前出のSだ。
  上場企業でもあるRの損益計算書を読むと、2018年度は2億円の受取補償金を特別利益として計上している。この「受取補償金」がすなわち立ち退き料なのだという。

 「Rは駅前一等地の古いビルへの出店が多い。駅前というのはだいたい再開発話の一つや二つは転がっている。例えば、再開発が具体化し、立ち退きの話がきたら補償金を要求する。駅前一等地の開発ともなると大きなお金が動きますし、開発スケジュールはタイトですから、事業主ものんびりやってられない。立ち退き料を多少ふっかけられても、要求を受け入れるしかないと考えられる」

 Rの沿革を見ると、1983年の時点で100店舗の出店を達成している。ところが、現在の店舗数は120店舗。つまり、この35年間で店舗数がほとんど伸びていないことがわかる。もしこの期間に相当な数の店舗が開店し、閉店しているとすれば、そこから得た立ち退き料だけでもかなりの収入を得ている可能性がある。

 「『Rは基幹事業よりも立ち退き料で儲けている』なんて揶揄する声もあります。もちろん冗談だと思いますが、もし立ち退き料で儲けようとするのであれば感心はしませんね」(S)
 だが「ゴネる企業」というレッテルを張られると、出店戦略に影響は出ないのだろうか。

 大手不動産勤務のDは、「飲食店舗の場合、古い店舗は閉鎖する代わりに新しい店舗を出店して、売り上げを維持するというのが大前提。新しく店舗を構えることができなくなれば、いずれ売り上げは右肩下がりになって最後はジリ貧になる。〝悪評〟が立ってしまった今、これからさらに儲け続けることは厳しいのではないか」と予測する。

 それを裏付けるように、Rの2019年度決算は純利益が前年同期比でマイナス。新規出店が計画に届かず、売上が未達だったことなどが影響していると見られる。

 立ち退き料というシステムを利用した巧妙なビジネスモデルも、そろそろ限界が訪れているということなのかもしれない。
 

◆フォレストダンプ/立ち退き部所属
「地主さんは売りたくて仕方ないけど恥ずかしがり屋で自分からは言い出せず、売ってくださいと言われるのを待っている」

文/全宅ツイ

最終更新:10/19(土) 17:48
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