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「おやつはビスコ」10年前、猟師に拾われた子グマが巨体に育つまで

10/14(月) 7:00配信

文春オンライン

「カーテンを開けたらクマと目が合った」 なぜ今年の秋は“4年に1度”のクマ大量出没シーズンなのか? から続く

【写真】おやつに「ビスコ」を器用に食べるクマ

 熊猟には語り尽くせないほどの深みがあり、野生の熊を相手にすることに正解はない。さらに、猟師と熊との関係は狩猟にとどまらない。人類学を専門とする私の調査地に「熊を飼っている人がいる」という話を聞いて、檻で飼われている熊に会いに行ってきた。

温和で太っていて、ディズニー映画に出てくるモンスターのよう

 飼い主となった猟師は、10年前に知人の猟師から親を亡くした熊の赤ん坊を譲り受けた。生後間もない子熊は冬眠を経験せずに親とはぐれてしまった場合、冬を乗り切ることができずに山で息絶えてしまうため、命を繋ぐためにどうしようもなく連れ帰ったのだという。

 ぬいぐるみのようであることを予想して行ったが、人間とともに育った熊も野生の熊と同じ目をしている。だが、温和で太っていて、まるでディズニー映画に出てくるモンスターのようだった。通常、冬には100キロを超える熊でも、山の食べ物が少なくなる夏には脂がなくなり骨と皮だけのように痩せる。訪ねていった日は猛暑でかんかん照りだったが、飼われている熊は恒常的に餌を食べているため、脂肪を蓄える秋の熊以上にずん、と太っていた。「くう」と呼ばれたこの熊には、朝と夕の2回、サツマイモや野菜などの餌をやっていた。この日はおやつとしてビスコのブルーベリー味を、飼い主の手から舌を使って器用に口元に運んでいた(「くう」の姿は、一般には公開されていない)。

かつて家族団らんのこたつの中で子熊が寝ていた

 今でこそ少なくなったが「子熊を育てる」ということは、大野の猟師の間ではそれほど珍しい話ではなかったそうだ。普段狩猟を教わっている猟師の男性の生家では、家族団らんのこたつの中で子熊が寝ていた。人間の赤ん坊のようにおしりを拭いてあげたり、哺乳瓶で粉ミルクを飲ませてあげたりして育てたのだという。

「おもゆ」で育てるのがよいという猟師もいたが、一番驚いたのは嘘か真か「祖母が母乳をやっていたと聞いた」という話であった。そのエピソードを聞かせてくれた猟師は、続けて言う。「あの熊、赤ちゃんの時に、ペットボトルにお湯を入れた湯たんぽを抱えていて腹に低温やけどしたんやの。その時、熊の油塗って治したんやと」。このエピソードは何人かから聞くテッパンエピソードだが、その話をしながら皆うれしそうに笑う。熊の油は、さまざまな使い方があるが、特に火傷に効くと言い伝えられており、今でも猟師たちが常備している高級品のひとつである。

 猟師は熊の個性をこう語る。

「(熊と遭遇する危険に関しては)『熊鈴を付けていればいい』とか、いろんな対策が語られるけれど、熊にも個性があるってことを知っていないといけない。だって、飼われている熊がそうでしょう。『人間は餌をくれるなかま』だと思っている。野生を生きる熊は違う。環境や経験によって、まったく別の個体がいるんだから」

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最終更新:10/15(火) 14:51
文春オンライン

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