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男子御三家「武蔵」が17歳に課す 非英語圏2カ月の武者修行

10/15(火) 8:10配信

NIKKEI STYLE

《連載》進学校の素顔 武蔵高校中学(中) 教育ジャーナリスト・おおたとしまさ

進学校の強さの秘密は「勉強」だけにあるのではない。学校の伝統や校風、生徒の課外活動に注目するこのシリーズ。開成、麻布とともに「男子御三家」と呼ばれる武蔵高等学校中学校編の2回目となる今回は、高校生を2カ月間も「海外一人旅」に送り出す国外研修を取り上げる。グローバル化に応じて英語教育に力を入れる学校は多いが、この研修は第2外国語が対象で大学受験にも役立ちそうにない。そんな研修を重視する背景には「自主的な学びこそ面白い」という信念があるようだ。教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏が迫った。

■17歳、海外2カ月の武者修行

「1人でドイツの地に降り立って、誰に案内されることもなく現地の学校に到着しました。しばらく話をしたのですが、ドイツ語が全然通じなくて、屈辱的でしたねえ」と振り返るのは、武蔵のある卒業生だ。

中学3年生から「第二外国語」でドイツ語を選び、高校の中級・上級クラスで成績優秀と認められて参加した「国外研修」での話である。武蔵には「かわいい子には旅をさせろ」精神全開の「国外研修」の制度がある。

「約2カ月間の研修のうち、約1週間はドイツ国内を1人で自由に旅行するように言われます。鉄道の時刻表などを自分で調べてルートを組んで出かけます」

ドイツ語を3年間学んだといっても週に1回ずつ、実用レベルにはほど遠い。言葉がほとんど通じないなかでの高校生一人旅。なかなか過酷である。

「私は、初日にいきなり乗るバスを間違え、予約していたユースホステルへの到着が遅れました。門は閉まっていて、中には入れません。真冬のドイツで野宿をする羽目になるなんて、夢にも思いませんでした。今となってはいい思い出ですが、本当に心細かった」

■受験に不要な第2外国語を学ぶ学校文化

研修の仕組みはこうだ。

武蔵では、中学3年から第二外国語が必修になる。徹底した教養主義を掲げた旧制7年制高校に由来する伝統の一つである。旧制7年制高校は、現在の中高一貫校と大学の前期教養課程を合わせたような戦前の教育システムだ。武蔵は日本で初めての私立7年制高校として創設された歴史をもつ。

ドイツ語、フランス語、中国語、韓国朝鮮語から学びたいものを選ぶ。希望すれば、さらに高校で中級・上級クラスを履修できる。上級クラスで特に健闘が認められた生徒には、高2から高3に進級する春に、提携校での研修が認められる。単身でドイツまたはオーストリア、フランス、中国、韓国,イギリスに行き、現地の学校で学ぶのだ。

校外学習の機会が多い武蔵でも、国外研修は究極のプログラムだ。すでに30年以上の歴史がある。毎週火曜日の放課後遅くまで、大学受験に役立つわけでもない授業を受けて頑張っている生徒たちに何か褒美を出せないかと考えた当時の大坪秀二校長のアイデアで生まれた。

第二外国語まで頑張る意欲のある生徒は、得てしてその他の教科の成績もいい。普通にやっていれば、難関大学合格も容易(たやす)い。しかし、世の中の高3生が受験勉強に本腰を入れ始めるこの時期に、学年トップクラスの精鋭たちを2カ月間も海外に出すわけである。普通の進学校の常識ではちょっと考えられない。でもそれが武蔵らしさである。

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最終更新:10/15(火) 10:13
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