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自死した夫へ「会社、辞めちゃえば」と言えれば…妻の後悔

10/15(火) 10:00配信

幻冬舎ゴールドオンライン

本記事では、朝日新聞記者・牧内昇平氏の著書、『過労死: その仕事、命より大切ですか』(ポプラ社)より一部を抜粋し、長時間労働だけでなく、パワハラ、サービス残業、営業ノルマの重圧など、働く人たちをを「過労死」へと追いつめる職場の現状を取り上げ、その予防策や解決方法を探っていきます。

妻は、軽いうつ症状がある「不安症」と診断された

どれだけ長く働いても給料が増えない──。そんな悩みをもっている人は少なくない。住宅リフォームの営業マンだった後藤真司さん(仮名・当時48)は、2011年1月、埼玉県内の自宅で自ら命を絶った。「85時間分の残業代を基本給に含む」という厳しい条件のもとで、長時間労働を行っていた。

前回の続きです(関連記事『 「借金返済のための覚悟の自殺である」心の病、認められず… 』参照)。

妻の夏美さんが自分を責めない日はない。実は、先に倒れたのは夏美さんの方だったからだ。

「リーマン・ショック」で真司さんが職探しを始めたころのことだ。夏美さんは心配で夜も眠れなくなった。2000万円ほど残っている住宅ローンは払えるのか。子どもたちの学費はだいじょうぶか。そう考えると、いてもたってもいられなくなった。当時夏美さんは近くの印刷会社でパートとして働いていた。夫の仕事が不安定な以上、これからはわたしももっとがんばらなきゃいけない。そう考えれば考えるほど、気持ちが焦っていった。職場に行くと手が震えた。真司さんの帰宅が少しでも遅れると、大きな不安に苛まれた。

〈今日は帰ってくるよね〉

〈絶対帰ってくるよね〉

そんなメールをしつこく送った。真司さんのすすめで心療内科を受診すると、軽いうつ症状がある「不安症」と診断された。それ以来、真司さんは職探しと同時に、夏美さんを精神的に支える役目も担うことになった。

毎週土曜日はクリニックへの通院日だった。いつも真司さんが付き添ってくれて、診察が終わると隣の喫茶店で一緒にコーヒーを飲んだ。

「大丈夫だよ。安心して」

真司さんはそう言って夏美さんを励まし続けた。その甲斐あって夏美さんはなんとか落ち着きを取り戻し、パートも続けることができた。

そのときの大変さを思い出していたのだろう。借金が増えても、仕事が苦しくても、真司さんは夏美さんに心配をかけまいと、一人で耐え続けた。

〈夏美に相談するとうつが再発して自殺の恐れがあるので出来ませんでした〉

遺書の中にはこんな言葉もあった。その言葉が、夏美さんの胸にはいつまでも突き刺さっている。

夫婦になってからずっと、真司さんが「支える側」だった。たとえ心配ごとがあっても前向きに解決策を考え、夏美さんに「大丈夫だよ」と言ってくれた。そんな関係に安住してしまっていたのかもしれない。

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最終更新:10/15(火) 10:00
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