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おれは最近、なんぼもろてるんやろ…ぶっちぎりの少額年金に驚愕〈週刊朝日〉

10/17(木) 17:00配信

AERA dot.

 ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は年金額について。

*  *  *
 日本年金機構から年金振込通知書が来た。対象は国民年金、厚生年金で、その内訳は、年金支払額が九万三千六百五十五円、介護保険料額が二万七千三百七十一円、個人住民税額が九百円で、控除後の振込額が六万五千三百八十四円だった。

「六万五千円……」わたしは思わず独りごちた。

 これは一月あたりの振込みではない。偶数月だけの振込みだから、一カ月だと三万三千円弱になる。国民年金を二十五年、厚生年金を四年(わたしは大学を出て四年間、スーパーに勤めた)も納めて、この金額だ。

 おれは最近、なんぼもろてるんやろ──。銀行の通帳を出した。八月十五日に“国民厚生年金”から六万五千八百五十五円、“公立共済”(わたしはスーパーを辞めたあと十年間、公立高校の美術教師をしていた)から五万五千五百五十七円が振り込まれている。ふたつを合わせて約十二万円だが、一月だと六万円だ。「これでは食えん」また、独りごちた。わたしにはさいわい著述業という収入源があるからいいものの、定年で会社を辞めたあと働きたくても働き口がないひとは絶対に食えない。一時期、物議をかもした、あの金融庁報告の年金ロールモデル「老後資金二千万円不足」問題は、世間一般の老夫婦に関しては端(はな)から存在しないのだ。

 わたしは通知書を手に、よめはんの画室に行った。画家はテーブルに枝つきのアケビを置いてデッサンしていた。

「ね、ハニャコちゃん、相談があるんですけど」

 いうと、よめはんは油断なく通知書に眼をやって、聞こえないふりをした。

「ね、おれの年金、月に六万円やねん」

「それが、なにか」よめはんは鉛筆を離さない。

「ハニャコちゃんの年金て、いくらよ」

「な、い、しょ、です」

 よめはんはわたしと同じく公立高校の美術教師だったが五十歳で早期退職した。六十歳から年金をもらっているが、その額を公表したことはない。夫を警戒しているから。

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最終更新:10/18(金) 12:59
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