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オリジナルを超えてスタンダードになった「改変」ヴァージョン【ジャズを聴く技術】

10/16(水) 15:01配信

サライ.jp

第28回ジャズ・スタンダード必聴名曲(17)「マイ・フェイヴァリット・シングス」

文/池上信次

前回、「ロジャース&ハマースタイン」のミュージカル楽曲は、有名曲、ヒット曲が多いにもかかわらずジャズ・スタンダードになっているものは少ないと紹介しました。しかし1曲だけ、飛び抜けて大ジャズ・スタンダードとなった曲があります。そうです、「マイ・フェイヴァリット・シングス(My Favorite Things)」です。

この曲は、コンビを代表する名作ミュージカル『ザ・サウンド・オブ・ミュージック』の中の1曲です(なお、ここではハマースタインは作詞に専念し、脚本は書いていません)。タイトル曲をはじめ、「エーデルワイス」「ドレミの歌」など有名になった曲がずらりと並んでいますが、「マイ・フェイヴァリット・シングス」が(ジャズとは関係なく)とりわけ有名ですね。ミュージカルは、1959年11月にブロードウェイで初演され、1443回のロングランとなりました。その後61年にはロンドンのウエストエンドで上演され、そちらは2386回という大ヒットとなりました。しかし、ハマースタインはブロードウェイ上演中の60年に死去。これが「ロジャース&ハマースタイン」の最後の作品となりました。その後、ミュージカルのヒットを受けて65年にジュリー・アンドリュースの主演でミュージカル映画化され、そちらも世界的に大ヒットしました。

「マイ・フェイヴァリット・シングス」は、バラにかかる雨のしずく、子猫のヒゲ、銅のやかん、ウールのミトンなど、「私の好きなもの」を羅列した(ほとんど韻を踏むためだけの)歌詞を、はっきりとした3拍子に乗せて歌うという、ジャズにはおそよ似つかわしくないタイプの楽曲です。これをジャズで初めて取り上げたのはおそらくジョン・コルトレーンでしょう。コルトレーンは60年の10月に録音、翌61年3月に、これをタイトルにしたアルバムをリリースしました。

前述のようにオリジナルはジャズっぽくない楽曲ですから、かなり「奇をてらった」選曲だったと想像できます。さらにコルトレーンはその曲をほとんど「解体」してしまったのです。オリジナルの特徴である、ワルツの跳ねるリズムを6/8拍子のアフロ・ビートに変え、美しいコード・チェンジを無視し、その頃コルトレーンが傾倒していた「モード」奏法を用いた平坦な進行にしてしまったのですから、ロジャーズが聴いていたならきっと呆れかえっていたことでしょう。

つまり、印象的なメロディ、しかもほぼアタマの部分だけを残し、あとは自分の音楽に作り変えてしまったのですね。まさに「ジャズ」。大作曲家ロジャースにケンカを売る、確信的「炎上商法」だったというのは考えすぎでしょうが、コルトレーンは最新ミュージカル曲をネタにして、「ジャズの面白さ」「コルトレーンの独自性」をアピールしたのです。そしてこのレコードはシングル盤まで作られるほどヒットし、マイルス・デイヴィスのグループから独立したばかりだったコルトレーンの存在感を際立たせたのでした(なおこのアルバムは、2018年までに50万枚ものセールスを記録しています)。

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最終更新:10/16(水) 15:01
サライ.jp

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