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こじらせリケジョの人生や恋を描く 期待の中国系作家のデビュー作

10/18(金) 6:00配信

Book Bang

 人生に、恋に、煩悶するリケジョを描く期待の中国系作家のデビュー作。

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 昨年、ニューヨーカー誌掲載の短篇のタイトルにふと目を惹かれた。「Omakase」。中国系女性と白人男性のカップルが、日本人板前が握るニューヨークの寿司屋で「おまかせ」コースを味わう。コースが終わるまでのあいだに、男女の背景や力関係、無邪気で呑気な男に対する自意識過剰な女の苛立ち、日本人と中国人との間の微妙な感情までをも鋭く描き出す手腕に、一読して瞠目、作者ウェイク・ワンの処女作にして2018 年度PEN/ヘミングウェイ賞受賞作『ケミストリー』も読んでみた。

 こちらは、化学の博士号取得コースから脱落した中国系女性が、移民の苦労を重ねてきた両親にそれを打ち明けられず、今後の身の振り方も決まらず、容姿も頭脳も性格も申し分ない同棲中の白人の恋人から結婚を申し込まれても決心がつかず、何もかも宙ぶらりん状態で煩悶する日々が、暗喩的な科学の雑学を交えて一人称現在形で語られる。恋人エリック以外は名前が与えられず、直截で淡々とした語りなのだが、その行間にしばしば強い感情が滲む。ごく普通のアメリカ人として育った善良なエリックにとっての「当たり前」に語り手はいちいち躓き、自分や両親の来し方を振り返る。周囲の何気ない視線や言葉が、日々語り手に突き刺さってくる。そんな状況でもがきながらも先へ進む道が見えてきたところで、物語は終わる。このユニークなヴォイスをクレスト・ブックスからお届けできることになって、とても嬉しい。

 作者は南京市出身。両親と共にオーストラリアとカナダ経由で11歳の時にアメリカへ。ハーバード大学で化学の学士号及び公衆衛生の博士号を、ボストン大学で美術学修士号を取得。全米図書協会の2017年度「35歳未満の注目作家5人」のひとりに選ばれている。本書はアマゾン・スタジオが映画化を検討中とのこと。

 ※ユニークな語りの行間に滲む感情――小竹由美子 「波」2019年9月号より

[レビュアー]小竹由美子(翻訳家)
1954年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。訳書にアリス・マンロー『イラクサ』『林檎の木の下で』『小説のように』『ディア・ライフ』『善き女の愛』『ジュリエット』、ジョン・アーヴィング『神秘大通り』、アレクサンダー・マクラウド『煉瓦を運ぶ』、ジュリー・オオツカ『屋根裏の仏さま』(共訳)『あのころ、天皇は神だった』ほか多数。

新潮社 波 2019年9月号 掲載

新潮社

最終更新:10/18(金) 6:00
Book Bang

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