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ほぼすべての資産を奪われて…悪徳「オーダーメイド介護」ヤバイ手口

10/20(日) 8:01配信

現代ビジネス

核心部分は100%実話

 ―72歳の独居老人・武田清は、介護業者が運営する宅配弁当を頼んだことをきっかけに施設が用意したサロンに仮住まいをはじめる。

「老後は3000万円必要」を信じてiDeCoにハマった夫婦の悲劇

 そこで提供される手厚いオーダーメイド介護と引き換えに判断力、体力、財力を奪われていった武田を待っている運命は……。司法書士の肩書を持つ安田さんの新作『ひと喰い介護』は、悪徳介護業界を舞台にしたスリリングなサスペンス小説です。

 今回の物語の骨格は司法書士として体験したある介護施設での出来事に着想を得ています。

 作中に登場する頼りない司法書士のモデルが当時の私で、途中まで介護施設の実態にまったく気づくことができなかった。事実を知った後、介護施設を訴えることも考えましたが、どこにも法律に触れる部分がないのです。

 ただ、違法性がなくても高齢者を食い物にしているのは事実。そのことを世間に告発しなければいけないとの思いで書いたのが今作でした。自分の中で贖罪の意味もあります。

 ―実話がベースと知って更に怖くなりました。物語の中で実話に基づくのはどの程度ですか。

 驚かれるかも知れませんが、核心となる部分に関しては100%事実です。ターゲットは孤独な独居老人。お弁当の宅配をきっかけに経済状態や家族構成を把握され、介護施設に取り込まれていった。

 至れり尽くせりの介護を提供するのと並行して親族との関係を遮断。財産管理をしているように装い、お金をどんどん使わされる。

 体力が衰え、判断力も低下すると、引き出す金額が加速度的に増加し、10年でほぼすべての資産を奪い取られてしまった。異変に気づき親族が組織から引き離したものの、2ヵ月後には息を引き取りました。これらすべてが実話で、施設は今も営業しています。

成年後見人制度を悪用

 ―被害者の武田は大手商社を退職した男で、知的水準も高い。それがいとも簡単に悪徳業者に取り込まれていきます。

 ポイントはふたつ。一つは宅配弁当です。特別な理由もなく親切に近寄ってきた人がいれば、これは下心があるのではないか、と考えたでしょうが、弁当を注文しているのは武田自身。しかも値段が比較的高いため、話し相手になるのも付加価値としてのサービスだろうと、納得して、ペラペラ個人情報を漏らすし、気を許してしまうのです。

 もう一つ、武田は会社でそれなりの地位に上り詰めた男で、定年退職した後も世間はそれを評価するべきだと考えていること。しかし、それは武田の勝手な理屈で、実際には通用しません。

 むしろ上級国民ぶりやがってと疎まれている。そうしたギャップから常に怒りっぽくなっているところに優しい言葉でプライドをくすぐられればイチコロで騙されてしまうのです。恐らく武田のような人は日本中にいるのではないでしょうか。

 ―発売後、モデルになった介護施設からなにか反応はありましたか。

 いえ、いまのところ反応はありません。そもそも自分たちの悪質さが理解できていないのでしょう。高齢者が求める介護を提供しているのだから、それなりの料金をもらうのは当然だ。むしろ感謝されてもおかしくないと思っているのです。現場で働くスタッフもそう思い込まされているから、やっていられると感じました。

 物語では専業主婦だった女性たちが雇われ、お互いに競わされる中で悪事から目をそらされる構図にしました。モデルになった施設で、裁判になったら証言してもらえないかと相談しても「私たちはここがなくなると食べていけない」と断られました。行き場がない人たちが支えている職場だから、こうした悪事が成立するとも言えるでしょう。

 ―孤独な高齢者を守る制度として期待される成年後見人制度が、物語では機能しないばかりか逆に悪用されました。

 成年後見と言えば、無断で預金を引き出した弁護士や司法書士の話が報道され評判がよくありません。あれは例外中の例外ですが、万能とは到底言えません。

 私も経験がありますが、認知症の人は夜中でも「お金を勝手に使われている気がする」などと電話をかけてくる。真面目にやろうと思うと24時間対応せざるを得ないのですが、そこまで対応するのが成年後見人の仕事かと言えば、それは無理がある。職業としての成年後見人には限界があるのは事実です。

 ―自分で稼いだお金は自分のために使い切って死にたいと考える人は多いと思います。悔いのない最期を迎えるためにアドバイスはありますか。

 まずは制度ですべて解決しようと考えない方がいい。むしろ最後にものを言うのは人のつながりだと思います。

 物語では介護施設の職員だったアラサーの独身女性が子供を産むことで将来自分の面倒を見てくれる人を確保しました。それも選択肢の一つですが、私個人としてはそれが唯一の正解だとは思いません。重要なのは血縁や婚姻よりも強く結ばれた相手をどれだけ持つか。それがあれば悪人につけ込まれる隙も減るのは間違いありません。

 そのためには過去の自分に縛られるのではなく、誰とでも心を開いて付き合える素直な心を持つことが不可欠。そして、この記事を読んで「自分はそんなバカじゃないから上手くやれる」と思ったあなたが一番危険だということは断言できます。

 終活など他人事と思わず、自分ならどうするかを考えるきっかけに本書がなってくれることを期待しています。(取材・文/平原悟)

 『週刊現代』2019年10月12・19日号より

安田 依央

最終更新:10/20(日) 8:01
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