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地震計で気候変動の「音」を読み解く、研究

10/23(水) 7:11配信

ナショナル ジオグラフィック日本版

性能が高まる地震計を使って、環境の変化を読み解く研究が進んでいる

 フランスとスペインの国境にそびえるピレネー山脈の地下に、迷宮のような実験室がある。そこでは、暗黒物質(ダークマター)を検出する実験が行われているほか、かつての鉄道のトンネル内で、地震計が周囲の音を敏感に聞きとっている。

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 数年前、スペイン、地球科学研究所ハウメ・アルメラの研究チームが、地震計の品質管理の作業中に不審な信号を発見した。ただし、その信号は誰にも識別できなかった。

 同研究所の地震学者ジョルディ・ディアス氏らはすぐに、その不定期に鳴る音が、トンネルを流れるアラゴン川から聞こえてくることに気がついた。信号の強弱が、川の流量変化と一致していたのだ。

 アラゴン川の水源は、ピレネー山脈の雪解け水だ。研究チームは、地震計を調整することで「雪が奏でる音」を突き止め、地震計の“歌”と雪解け現象を結びつけることに成功した。これにより、数カ月、数年にわたる雪解けの動向を驚くほど正確に観測できることがわかった。この研究の論文は、10月10日付けの学術誌「PLOS ONE」に発表された。

 雪解け水は地域の天候に左右されるため、今回の技術を使えば、地球温暖化が積雪に及ぼす影響を把握できると期待されている。この小さな地震観測所で、気候変動の「音」を記録できるかもしれないのだ。

地震計の「耳」を利用

 地震計の本来の役割は、地殻の振動を聞き逃さないことだ。こうした揺れは、地球はもちろん、月や火星でも発生する。計測機器の感度が高くなっていることにより、巨大地震から微弱な地下の揺れにいたるまで「地面を揺らすものなら何でも記録できるようになりました」と米国大学間地震学研究連合の地質学者ウェンディー・ボーホン氏は話す。なお、同氏は今回の研究には関わっていない。

 ボーホン氏の言葉は大げさではなく、頭上を飛ぶヘリコプターから核爆発や隕石の空中爆発、海底火山の噴火まで、すべての音を計測できるという。

 これは、環境科学者にとっては、素晴らしいニュースだ。たとえば、米西海岸にある地震計は、東海岸に近づくハリケーンが海をかき乱して起こす「地震」を検出できる。また、温度が変わって氷が割れる音、氷床の一部が分離する際の反響音、クレバスが爆発的に拡大する音も聞きとれる。

 地球温暖化が進むにつれ、台風やハリケーンはさらに激しくなる可能性が高く、世界中の氷はますます解けていく。この数十年で、地震計により気候変動の影響を観測できることが、徐々に明らかになってきた。

 科学者は、まだ地震信号の微妙な違いの解明に努めている最中で、時には、個々の地震の音の原因を究明しようと、研究室で自然界の状態を再現してみることもある。今後、地震計の感度がさらに高くなり、かつ費用が下がれば、環境地震学という始まったばかりの新分野は成果を上げるだろう、とボーホン氏は言う。

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