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映画『駅までの道をおしえて』:昭和一ケタ生まれの現役俳優・笈田ヨシが語る「生き延びるヒント」

10/23(水) 16:01配信

nippon.com

松本 卓也(ニッポンドットコム)

舞台や映画で唯一無二の存在感を発揮する俳優、笈田ヨシ。半世紀にわたり世界を股にかけて活躍し続ける超ベテランが、77歳年下の子役・新津ちせと共演した最新作『駅までの道をおしえて』について触れながら、芝居に対する姿勢から、今の若者に対する思いまで、独特の視点で語ってくれた。

映画『駅までの道をおしえて』は、いなくなった愛犬の帰りを待ち続ける少女と、先立った息子との再会を信じる老人の心温まる交流を描いた物語。伊集院静の短編小説を橋本直樹が脚色、監督した。主人公の少女を演じる新津ちせは、米津玄師プロデュースの大ヒット曲『パプリカ』を歌う小学生ユニット「Foorin(フーリン)」のメンバーとしてブレイク中だ。

その「相手役」が今年で86歳になった笈田ヨシ。数世代のギャップを超えて少女と心を通わせるジャズ喫茶のマスターを演じている。橋本監督が求めたのは、「日本の映画やドラマに出てくる典型的なおじいさん」とは一線を画す俳優。幼い少女とも対等な友人関係を築くことのできる、不思議な存在感を持つ老人役に選ばれたのが、半世紀にわたって欧州を拠点に活躍する笈田だった。

人生80年以上にもなると…

――これまで、特に舞台では、多くの哲学的、文学的な作品に出演してきましが、この映画はかなりタイプの異なる作品ではないですか。

「役者ですから、お座敷がかかれば喜んでやらせていただくだけです。いい映画になるように、ちょっとでも貢献したいという心持ちでやっています。僕の友達は、みんな年寄りだけどね、観て泣いたと言っていましたよ。多くの人に気に入っていただけたんではないでしょうか。それは僕の手柄じゃなくて、スタッフの方々の涙ぐましい熱心さ、監督の集中力、プロデューサーの努力、それから可愛らしい彼女(新津ちせ)と、犬のおかげ(笑)」

――著書の『見えない俳優』には、若い頃、先輩に「動物や子供と一緒の舞台に出るな! 食われてしまうぞ」と助言されたと書いてありましたが、今回はまさにその禁を犯していますね(笑)。

「エヘヘヘ、確かにそう書きましたけど、もう僕の年になったら、食われたってどうってことないんで。僕は犬が好きですし、彼女は僕のひ孫くらいですから。一緒にやって食われちゃったら面白いなって感じですよ。昔から、古典芸能の先生たちにいろいろ教わってきましたけど、自分がよく見えるより、相手を助けるように演じろと言われましたね。子どもでも誰でも、とにかく相手がやりやすいように努力するだけですよ」

――今回の出演をめぐっては、とかく「77歳差の共演」や「86歳現役」といったところに興味が集まりがちですが、そういう反応についてはどう思いますか。

「いちいち意識しませんよ。相手役と年が離れていても、それと関係ないところで仕事をすればいいって思っています。悲しいことに、われわれ年を取ると、習慣とか、社会的立場とか、そういうものに縛られて、素直に自分の心を出すことがだんだんと少なくなる。年齢を重ねるにつれて、分別がなきゃいけないとか、人間はこうあるべきだとか、礼儀はどう、道徳はこう、といっぱい衣を着ていくんだね。でも、それを全部脱いで裸になる勇気があれば、老いも若きも、男も女も、人も動物も、みんな心で通じ合える。もう少し人生を楽に生きられるんじゃないかな」

「この映画の話のように、大切な存在を亡くして、悲しみが癒えない、忘れることができないというのは、誰にでもあると思うんですよ。80何年も生きていると、そういう材料がいっぱいあるわけで。でも人間は、想像力でその穴を埋めることができる。去った人と想像の世界で交流したり、夢の中で話をしたり。そういう能力を人間は持っていて、それで悲しみを乗り越えて、生き抜いていけるんですね。残された者が悲しむだけじゃなく、生き延びていくためのヒントを教えてくれる映画だと思います」

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最終更新:10/23(水) 16:01
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