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乃木坂46版『セラミュ 2019』から考える、グループがもつ舞台志向の継承

2019/10/23(水) 13:10配信

リアルサウンド

 TOKYO DOME CITY HALLで上演されていた『乃木坂46版 ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」2019』は、10月14日に東京公演の千穐楽を迎えた。長い歴史をもつ「セラミュ」は昨年、乃木坂46が2チーム制による上演で引き継いで新しい展開を迎え、今年の公演はその流れを受けてのものになる。

 2018年版『セラミュ』が鮮烈な印象を残したのは、もとより舞台演劇への志向が強い乃木坂46をキャストに迎えての配役の妙はもちろんのこと、ウォーリー木下の演出による密度の高い絵面の実現や、タキシード仮面/地場衛役の石井美絵子、クイン・ベリル役の玉置成実をはじめとする共演者たちによって、現代的にリファインされた『セラミュ』像が示されたためだった。

 今回の公演も、セーラー戦士たちの周囲を固めるキャストが継続となり、前年と同じくセーラー戦士たちの出会いに始まる「ダーク・キングダム編」をまとめた物語が展開される。初演時に比べて細部にタイトさを増したストーリーと、すでに一度世界観を作り上げてきた継続キャスト陣のなかで大きな注目点となるのは、新たにセーラー戦士を担うメンバーがどのように2019年版を作ってゆくのかということである。こうしたメインキャストの継承はまた、2.5次元舞台のもつ面白みのひとつでもある。

 今年の公演ではセーラームーン/月野うさぎを演じる久保史緒里が、新たな戦士たちの象徴になった。彼女特有の感情表出のあり方は、とりわけ登場人物たちが前世からの記憶を引き受ける際の切実さの表現において、強いインパクトをみせる。昨年の山下美月・井上小百合の両セーラームーンとも大きく異なるセーラームーン/うさぎ像は、乃木坂46版『セラミュ』としての特筆すべきものだ。

 また、久保が備えている歌声の強さもコミカルさの表現も、このミュージカルの中心に立つ者としてのポテンシャルを十二分にみせている。かねてから舞台演劇への適性をみせてきた久保だが、今回の『セラミュ』は彼女の足跡において重要な意味をもつはずだ。

 うさぎが初めて出会うセーラー戦士として登場するセーラーマーキュリー/水野亜美は、久保と同じ3期メンバーの向井葉月が担当する。バラエティ番組などでの印象的なキャラクターとは対照的に、彼女は以前から舞台演劇においては「乃木坂46の向井葉月」を消してそのつど登場人物の性質に順応する器用さと繊細さをみせてきた。おそらくは向井のイメージとは大きく異なる、静的な佇まいが肝になるマーキュリー/亜美を受け持ったことで、彼女の適応力をこれまでにない形でみせる機会となった。

 昨年の乃木坂46版『セラミュ』でも特徴のひとつだったのが、グループのなかでまだキャリアの浅いメンバーたちがメインキャストを担う姿だった。今年でいえば、早川聖来(セーラーマーズ/火野レイ)や田村真佑(セーラーヴィーナス/愛野美奈子)といった4期メンバーのキャスティングがそれにあたる。グループ加入からの期間を考えれば昨年版の3期メンバーたちよりもさらに実質的な活動が少ない状態で臨み、セーラー戦士たちを引き継いだ。ここには『セラミュ』そのものの継承とともに、グループがもつ舞台志向の継承をも見いだせる。この二重写しは、彼女たちがバトンを受けた乃木坂46版『セラミュ』によってこそ具現化される。

 昨年も芝居巧者が配役されていたセーラージュピター/木野まことは今回、伊藤純奈が演じている。この3年ほど、舞台演劇分野での活動についていえば、彼女は乃木坂46のなかでも有数の実績を誇っている。今回、『セラミュ』を乃木坂46が引き継ぐ局面でも、出演メンバーたちを統率するような彼女の存在感は、セーラー戦士全体の見栄えを支えている。演じる者たちを継続的に輩出する乃木坂46のアイデンティティにとって、伊藤純奈の継続的な活躍の意義は大きい。

 本編上演後にはスペシャルライブショーが行なわれるが、この時間もまた『セラミュ』の世界観を完遂するための不可欠な時間になる。昨年復活したバンダイ版の『セラミュ』楽曲「La Soldier」のパフォーマンスをはじめとして、ライブショーには久保ら5人の背後に連綿と続く『セラミュ』の系譜を見通すような瞬間が随所に立ち現れる。そして、和田俊輔が手掛けた「運命の貴女へ」は、その系譜の先に引き継がれた乃木坂46版『セラミュ』の歴史を物語るためのアンセムとして響く。

 もちろん、プロジェクション演出が高い効果を生む変身シーンや、人物たちの背景にある都市の表現など、昨年新たなセラミュ像を築いた要素もあらためて確認できる再演になっている。昨年からのウォーリー木下演出を軸に再演された2019年版によって、乃木坂46による『セラミュ』はひとつのスタイルを固めたといっていい。今回の座組による上演は11月の上海公演を残すばかりだが、トータルの上演回数の多寡にかかわらず乃木坂46が、そして新たなセーラー戦士たちがこの作品の系譜を引き継いだことには、得難い価値がある。

香月孝史

最終更新:2019/10/23(水) 13:10
リアルサウンド

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