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松田優作没後30年 最初で最後のハリウッド映画『ブラック・レイン』の衝撃<ザテレビジョンシネマ部>

11/6(水) 7:00配信

ザテレビジョン

映画『ブラック・レイン(1989)』(11月13日午前10:35 WOWOWシネマ )が初公開されてから30年――そして、本日は「11月6日」。ということは、あの不世出の、稀代のアクターが惜しまれつつも他界してから、同じだけの月日が流れたわけである。

【写真を見る】松田優作が演じた“悪の結晶体”のようなキャラ「佐藤」

その男の名は松田優作。『ブラック・レイン』は、彼がかねてより憧れ、“映画の父”の国と呼んでいた聖地、アメリカへと乗り込んで、確かな存在証明を為し、役者としての力量をワールドワイドに認めさせた作品だった。オーディションで手に入れた役どころは、本国のみならずNYでも跳梁跋扈している日本人ヤクザ「佐藤」。狂気と冷徹さとカリスマ性を帯びた、まるで“悪の結晶体”のようなキャラクターだ。

NY市警の刑事ニックとチャーリーに、殺人の罪で佐藤は一度は捕獲されるものの、護送中、大阪空港での引き渡し時に手下を使ってまんまと逃走、2人は大阪府警の松本警部補の監視のもと、異国の地で佐藤を追うことになる。監督を手掛けたのは鬼才リドリー・スコット。主要キャストは当時ノリに乗っていたハリウッドスターのマイケル・ダグラスにアンディ・ガルシア、さらには、世界に誇る日本映画界の至宝、高倉健も。顔ぶれは申し分ない。

松田優作…いや、彼が化身してみせた冷酷非道な佐藤は、事件の発端、登場シーンから観る者の目を釘付けにする。レストランに颯爽と現れ、サングラスを外すや一挙一動で“場”を圧していくのだ。静かな凄み。と、そこに偽札の原版を取られ、メンツを潰されたヤクザの親分の「相変わらずヒヨッコだな」という声が! 佐藤はため息と共にやおら振り向き、「あァ?」と声の主をにらんだかと思うと、まず子分の胸をナイフで刺し、続いて親分の背後に回って喉元をかっ切る。以降もかように、ひとつひとつの身振りに半端ない殺気と緊張感をみなぎらせてゆく優作は、例えば『羊たちの沈黙(1991)』のアンソニー・ホプキンス、『ダークナイト(2008)』のヒース・レジャー、はたまた『ジョーカー(2019)』のホアキン・フェニックスなどにも匹敵する“悪”の魅惑の匂いを先んじて、スクリーンを通して振り撒いたのであった。

リドリー・スコット監督やマイケル・ダグラスも立ち会ったオーディションにて、ネクタイを手錠に見立てて手首へ結び、それで迫真のパフォーマンスを見せて優作は2人を驚かせたという。また、タイトルの“ブラック・レイン”とは原爆投下後に降る黒い雨を指すが、比喩的に、日本とアメリカの歴史の歪みから誕生した怪物=佐藤のことを示しており、ここから類推して計り知れないキャラへと膨らませたのも彼ならでは。本作公開後、ハリウッドからはいくつものオファーがあり、敬愛するロバート・デ・ニーロとの共演作も企画されていたのは有名な話だろう。

だが、この映画の撮影中、松田優作は病魔に侵されていた。不意に止まってしまった時間…不条理な現実に打ちのめされながら、残された者たちは今も「オレの優作、ワタシにとっての優作」を語り合う。できることはそれしかないし、時を経てもその男は、存在の輝きを微塵も失っていないのだから。“卒業”なんて不可能、きっと我々は彼に、永遠に解けない魔法をかけられてしまったのだ!

■ 文=轟夕起夫

ライター。『キネマ旬報』『映画秘宝』『クイック・ジャパン』『ケトル』『DVD&動画配信でーた』などで執筆。モデルとなった書籍『夫が脳で倒れたら』が発売中。(ザテレビジョン)

最終更新:11/6(水) 7:00
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