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南沢奈央「まるで異界に来てしまったよう」虚構と現実が混ざり合う小説を楽しむ

11/8(金) 18:41配信

Book Bang

「ないもの、あります」

 2階の渡り廊下を通って隣の建物に入ると、そこは4階だった。そんな経験はないだろうか。そこで一瞬、空間の軸と時間の軸が揺らぐ。まるで異界に来てしまったようだ。
 果たしてここは、虚構なのか。それとも、現実なのか……。
 ここは、本の中。表に記された、宮沢賢治作品を想起させる『注文の多い注文書』というタイトルもまた、もう一つの世界への入り口のように思える。
〈その街区は都会の中の引き出しの奥のようなところにありました〉から始まるプロローグ。クラフト・エヴィング商會にたどり着くまでのほんの7ページで、すでに、渡り廊下を渡った感覚になっていた。

「ないもの、あります」との謳い文句を掲げるそのお店には、さまざまな事情を抱えて探し物をしている人々が訪れる。「じつは、昔、読んだ本に出てきたものなんですが――」と客が注文するのは、川端康成『たんぽぽ』に登場する人体欠視症治療薬、J.D.サリンジャー『バナナフィッシュにうってつけの日』のバナナフィッシュの耳石、村上春樹『貧乏な叔母さんの話』の貧乏な叔母さん。ボリス・ヴィアン『うたかたの日々』は肺に咲く睡蓮、内田百間『冥途』の落丁と、本に関わるものばかり。
 どうして今必要なのか、と理由を説明するために、注文主は自分について語り始める。この長い“注文書”で依頼主の人生が見えてくる。
 そしてそれぞれの注文に対して、クラフト・エヴィング商會が時間を掛けて向き合い、最後には物の写真と文章を添えて“納品書”で返す。受け取った依頼主がその後を“受領書”として報告するという、一作が3部構成になっている短編集だ。
 ……とここまで来て、お恥ずかしながら白状しますが、この一冊を読み始めてしばらく、クラフト・エヴィング商會は小川洋子さんの創作で、架空のお店なのだと思っていた。だが何の気なしに調べてみたら……実在するではないか。大変失礼いたしました。
 クラフト・エヴィング商會というのは、吉田篤弘さんと吉田浩美さんの創作ユニットだ。25年ほど前に、架空の書物や商品の解説を並べるという形の展覧会「あるはずのない書物、あるはずのない断片」で活動を開始されたそう。(この展覧会も気になる!)その後は、実在しない物を手作りし、その写真に短い物語を添えるという書物を出版したり、ブックデザイナーとしても活躍されている。

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最終更新:11/8(金) 18:41
Book Bang

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