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実話がモチーフの小説『ひと喰い介護』、判断力・体力・財産を奪われた老人の末路は

11/9(土) 16:00配信

週刊女性PRIME

 大企業を定年退職し、妻を亡くして郊外の一軒家で ひとり暮らしをする武田清は、ある日、手作り弁当の宅配を頼む。そのサービスを提供するのは、介護施設「ゆたかな心」。介護業界の風雲児・高坂万平の経営する注目の「オーダーメード介護」施設だ。

【写真】笑顔でインタビューに答える安田さん

人としての尊厳を失っていく

 物語のキーマン、武田清はエリート意識が高い72歳。身体も思考力もまだまだ健在。老後の蓄えも1億5000万円ほどと、ひとり身ながら恵まれたリタイア生活を送っている。

 介護とは無縁の暮らしを送る彼が、ある介護施設に関わり、入居したことで、判断力、体力、そして財産を奪われていく。

 それも、奪われているとは気づかないうちに、施設側の巧妙な手口によって、徐々に人としての尊厳を失っていくのだ。タイトルどおり「人を喰う」介護施設が舞台。ひと言でいえば「恐ろしい」話である。

 著者の安田依央さんは、1年の連載を終え、改稿を重ねた6か月を振り返って、
「連載時はもちろん、連載では描き切れていなかった部分をより鮮明に、より深く掘り下げる作業は、本当に(精神的に)キツかったです」と振り返る。

 物語には、介護される人、介護する人、その家族、そして介護業界の中心で闇を支配する人など、さまざまな立場の人々が登場する。

 そのひとりひとりが、私たちの身近にもいそうな存在で、物語のパズル全員が興味深い。現代人が避けては通れない「介護」の闇を彼らの視点で描いて見事だ。

ノンフィクションをフィクションに

「実は小説のベースになっているのは実話なんです」インタビュー冒頭での言葉に、その場にいた私たちは言葉を失った。司法書士としても仕事をしている安田さんが、実際に経験した依頼人と介護施設との関係をモチーフに物語は作られたという。

「もちろん、登場人物や施設などは小説として面白いように変えていますが、介護施設に入居したことで、財産や生きる力、すべてを奪われたというベースの話はあります。この物語を読んで、“ありそうな話だなぁ”と思っていただけたら、ありがたい。多くの方々に、『これは実際にあった話をモチーフにしている』と伝えることも私の使命です」

 安田さんは当時、問題に気づきながらも、司法書士という立場上、きちんと踏み込むことをしなかった自分の贖罪の意味も込めて、この物語に向かったという。

「被害にあわれた依頼人の姪御さんから、問題を告発したいと相談されて。私も罪の意識から、新聞社などを巡ったのですが、明白に法律に触れていない限りは記事にできないと言われました。私は小説家、それならばフィクションで、私自身が書くしかないと思ったんです」

 安田さんのこの苦い経験が珠玉の一冊を生んだのだった。

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最終更新:11/9(土) 16:00
週刊女性PRIME

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