―[自衛隊ができない100のこと/小笠原理恵]―
その68 防衛医大・自衛隊病院は生物・化学兵器テロに対抗できるのか?
食料自給率という言葉は認知度も高く、多くの人が関心を持っています。食料を外国に頼り切ってしまうと、何らかの問題で輸入が止まれば、食べものがなくなって餓死者が出るようなことになりかねない。だから、食料はできるだけ国内で100%賄うべきだという考えは一般にも広く浸透しています。
しかし、同じく死活問題に直結しているのに、エネルギー自給率の話になると国民の関心度は下がります。さらに、話題にすらのぼらない医薬品の自給率となると、ほとんどの人は気にもとめないようです。だから、「ある薬」の自給率がすでに非常事態となっているのに大きく報じられないのも頷けます。
抗菌薬という薬は、肺炎や膀胱炎など“バイキン”による感染症の治療に使います。また、手術後の傷の感染症予防にも使用され、大きな手術前後にこの薬が投与できなければ死亡率が上がります。このときにもっとも多く使うのが「セファゾリン」という薬です。ところが、今年の3月から供給が滞っています。なぜなら、この薬の原料を製造しているのが中国の1社だけで、その工場が操業停止となったからです。
その後、セファゾリンの代用薬も芋づる式に不足に陥っています。実は、抗菌薬の原料の大半が中国を始めとする外国でつくられています。厚労省が薬価を安くしてきたために我が国の製薬メーカーは利益にならない事業から撤退し、外国産に切り替えました。生命を守るキードラッグの製造の一端が海外に握られているのです。
これはもはや、安全保障上の問題と言っていいのではないでしょうか。感染症関連の学会は国に対して抗菌薬の安定供給を求めていますが、状況は変わっていません。早晩、手術時の死亡率が跳ね上がるような事態も招きかねず、このまま問題を放置しておいていいのか? 不安になります。
最終更新:11/9(土) 8:55
週刊SPA!
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