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「気持ち良くなったら終わり」私たちは誰かを罰することはできない。【西加奈子×ブレイディみかこ対談 第2回】

11/10(日) 7:00配信

Book Bang

作家の西加奈子さんの小説『i(アイ)』(ポプラ社)の文庫版が11月6日に発売されたことを記念して、西さんとイギリス在住のライター・コラムニストのブレイディみかこさんが対談を行いました。

西さんは、ブレイディさんの最新エッセイ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)の帯に「絶対に忘れたくない、友達みたいな本」とコメントを寄せ、ブレイディさんとの対談を熱望していたと言います。

西さんとブレイディさんの対談の模様を3回に分けてお届けします。

■「正しさ」で解決できないことを書く

西加奈子(以下:西):『ぼくイエ』で、息子さんが貧困家庭の友達に制服をあげる話がありますよね。

ブレイディみかこ(以下:ブレイディ):ティム君のエピソードですね。

西:ブレイディさんも息子さんも、彼に気持ち良く制服を受け取ってもらうためにどう言えばいいのかをあれこれ考えるんだけど、いざ制服を渡したときに「どうして僕にくれるの?」と言うティム君に息子さんが「君は僕の友達だからだよ」って答えるっていう……。
「私なら何て言うかな?」「ティム君を傷つけない“正しい”言い方って何かな?」とハラハラしながら読んでいたのですが、息子さんの言葉に「それやん!」とハッとしました。愛を感じたし、めちゃくちゃ勇気をいただきました。

ブレイディ:私も息子の「Because you’re my friend!」という言葉が衝撃だったから書いたのですが、本当にそうですよね。逆に複雑な世の中になっていくと、例えばイギリスの私立の学校が「ベスト・フレンドをつくってはいけない」というルールを作ったんですよ。親友をつくったら、親友になれなかった子がかわいそうだからって。「あの子は私のベスト・フレンド」って言うのはやめて、「みんな私のグッド・フレンズ」って言いなさいって。

西:ポリティカルコレクトネス(ポリコレ)的には「正しい」のかもしれないけれど……。

ブレイディ:そう、でも人間ってそうじゃないんですよね。もちろんポリコレはあったほうがいいと思うけれど、誤った運用の仕方をしたら人間である理由の根本をなくすような気がするんですよ。
 この調子でポリコレが進んでいくと、「親友はダメ」という世の中が本当にくるかもしれない。でも、そういう「正しさ」で解決できないことを書いていくのがおそらく文学の役割だと思います。
「愛」という言葉だって、いろいろな愛があるけれど、愛は「わがまま」でもあるわけですよね。「なぜあの人だけ愛するの?」「なぜ私じゃないの?」って。「親友をつくってはいけない」理屈で言うと、最終的に恋愛もしてはダメなことになる。

西:そうですよね、恋愛はあの人とこの人を区別することでもあるから……。

ブレイディ:愛というのは表裏一体なんですね。キリスト教は「みんなを隣人のように愛しなさい、それが愛です」と説くけれど、それだと究極的には「ベスト・フレンド」はいてはいけないことにもなる。もしかしたら、ものすごく暗くてドロドロしたものや正しくないものもあるかもしれないけど、それも含んだのが愛であり、「i」でもあり、それを恐れちゃいけないし、それをないものにしちゃいけないんじゃないかなと思います。

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最終更新:11/12(火) 11:14
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