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サッカー選手を32タイプに分類。奈良クラブ×SAPの「育成のIT化」

11/12(火) 21:34配信

footballista

2019年10月、JFLの奈良クラブが選手のパフォーマンス向上を目的にSAP社の「SAP SuccessFactors」を導入したと発表した。主に企業のヒューマンリソースマネジメントに利用されているこのサービスをサッカークラブで採用したのは世界初だという。そこで林舞輝GMに導入の経緯と狙いを直撃した。

インタビュー・文 浅野賀一(footballista編集長)
編集 横堀ミラノ(フットボリスタ・ラボ)
編集協力 堀本麦(フットボリスタ・ラボ)

「コンバート」をもっと効率的にやりたい

――まずはSAP SuccessFactorsの導入の経緯から教えてもらってもいいですか?


 「最初は中川社長がSAPの話を聞いてみようと言い出したんです。SAPは、ホッフェンハイムの取り組みのイメージもあるし、新しいテクノロジーの象徴みたいなところがあるので。それでSAPをどう導入できるか検討し、フランクフルトでSAPのカンファレンスがあって、ゲスト枠で僕も参加させてもらったりしました。そしたらサッカークラブのほとんどが使ってるのが『SAP Sports One』(以下Sports One)というクラウドのソフトウェアでした。これをまず導入しようと検討したんですが、今の奈良クラブには宝の持ち腐れになると思ってやめました。SportscodeやWyscoutとかのソフトウェアとか、日々のトレーニングとかメディカルとかのデータも全部クラウドで1つにできて、しかもそれぞれに関連性を持たせてダッシュボードにまとめたりグラフ化やレポート化ができるんですね。魅力的なソフトではあるんですが、そもそも膨大なデータとスタッフを持つようなビッグクラブじゃないと使いこなせないと思いました」


――なるほど。だからSports Oneって名前なんですね。


 「そうです。でもそもそも僕らは規模が大きくなくて、それほど膨大なソフトウェアやデータがあるわけじゃない。そんな中でほぼ偶然SAPの他のソフトウェアを調べていたら見つけて、これは面白そうだなと思ったのが、SuccessFactorsでした。全然スポーツ向けではなくて、普通のビジネスの世界で使われているソフトウェアです。『これは使える』と直感があって、それから各方面に相談して、アカデミーで使うことになりました」


――あくまでビジネス向けのソフトウェアですよね。どの辺りに可能性を感じたんですか?


 「ヒューマンリソースマネジメントのソフトウェアなので、普通のビジネスの現場では主に人事管理で使われています。社員の適性や能力を把握できて、後継者管理とかもできる。例えば、数年後の人事部長の候補は今人事部にいるこの人とこの人だよね、でもこの人にはコミュニケーション能力がまだ足りない。だったらこの人はコミュニケーション能力を高めるために1年間営業部で働いてもらおう、みたいなことができるんです。だからサッカーで使うとなると、例えばアカデミー全体で何年後かにこのタイプの選手が足りなくなるからこういう選手をスカウティングしておいた方がいいと判断できたり、この選手は将来こういうタイプの選手に育つ可能性があって、でもそのためにはこの部分が欠けてるから、それを伸ばさないといけないよね、みたいなことが見ていきます」


――長期的な選手の管理という意味で生かせるわけですね。


 「あと選手の情報を一元的に管理できるというのも大きいですね。今までは紙レベルだったので。出身地、過去の所属チームや指導者とかもわかって、この子はここでこういうことを教わってたんだ、こういう練習してたんだ、みたいなことがすぐ見えるのは大きいです」


――サッカーに導入するにあたって、選手のプレースタイルや役割を32タイプに分類しているとプレスリリースに書いてありますよね。これはどういう目的なんですか?


 「選手の可能性を最大限に引き出すためです。もともとの問題意識としてあるのが、例えばコンバートして一気に活躍する選手とかいるじゃないですか。あれって要するにコンバートするまではその選手のポテンシャルをちゃんと評価できてなかったわけで、それってマズくないかって話で。例えばジルーみたいなポストプレー型のFWとフィジカル系のCBって、求められるフィジカルの能力は似ています。速さよりも大きいこと、空中戦に強いこと、ボールが収まること。ここのコンバートってよくあるんですよ。数年前に奈良クラブにいた選手で、ずっとCBでやってて、あるシーズンいきなりFWで起用されて得点王になった選手もいました。でもそれって偶然監督の見る目があってFWになったから上手くいっただけで、もしかしたら一生CBで覚醒しなかったかもしれない。だから本当は育成の時から、この選手はフィジカル的に強くてCBとFW両方の可能性があるよね、CBで育つとしたらもっとこの能力が必要で、FWで育つとしたらこの能力を育てる必要があるよね、ということを考えて指導をするべきなんです。長友選手とかも、もしSBにコンバートされずにずっとボランチをやっていたら、インテルに行くことはなかったかもしれない。でもいきなりSBで起用されてあそこまでのし上がった。香川選手だって、クルピにセレッソでボランチからトップ下にコンバートされて大成功した。そういうことを指導者との出会いなどに賭けるのではなく、育成からもっと効率的にやりたいんです。もしかしたら、日本サッカー界にはSBにコンバートされなかった長友選手やトップ下にコンバートされず眠ったままの香川選手が、まだまだいるかもしれない」


――32タイプというのは、ポジションの分類がベースにあった上で、特性によってさらに細かく分類してるってことですよね?


  「そうです。信頼できる協力者に相談して、そもそもサッカー選手ってタイプ分けできるんじゃないのって話をして。FW、MFという区切り方はできないわけですよ。例えばボランチといってもいろんなボランチがいる。シャビとか柴崎みたいなゲームメイク型の選手がいる一方で、1列下で『サリー型』って名付けたんですけど、サリーをできるような選手、ブスケッツとかピルロみたいな選手もいる。トップ下も、スナイダーみたいなゲームメイカー型の人もいれば、香川みたいなスペースで受けてボールを引き出すタイプもいるし、トッティとかカカーとかデ・ブルイネみたいなカウンターでスピード乗った時の攻撃で最も生きるような選手もいる。そういう風に分類していって、その中でそのタイプの選手にどういう能力が必要かをさらに詰めていくという感じです」


――それは奈良クラブのゲームモデルとして、一例ですけど[4-3-3]の枠組みの中でこういうタイプの選手が必要だから、みたいな考え方になるんですかね?


 「奈良クラブのゲームモデルは考慮していないです。奈良クラブのゲームモデルに合う選手を育てるためではなくて、その選手のポテンシャルを最大限に引き出すためのものなので、普遍的に分類しています。いろんなチームを見て、全員が分類できるようなものにしました」


――特定のプレースタイルの中での役割ということではないんですね。


  「そうです。日本代表のメンバー全員にも当てはまるようになっているし、全世界の選手たちも。例えばファン・ダイクなんて、幅広く能力が高いのでCBの中でどのタイプにも当てはまるみたいになるんですけど、そこはメインの能力とプラスアルファみたいな扱いをしています。必ずどこかのタイプには当てはめられるようになっています」

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最終更新:11/19(火) 13:36
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