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『けいおん!』『バンドリ!』『うた☆プリ』……アニメーションにおける演奏表現の進化を辿る

11/12(火) 10:46配信

リアルサウンド

 今年の7月、老舗音楽雑誌『ロッキング・オン』が自社で音楽アニメのプロジ
ェクトを開始すると発表した(参照:ロッキング・オンが手がける音楽アニメプロジェクト)。

【写真】『響け!ユーフォニアム』での演奏シーン

 自社で原案・企画立案し、新人発掘オーディションも行うそうで、出版事業だけでなく音楽フェスを開催するなど、日本のロックシーンを牽引する同社が音楽アニメを自ら作ると聞いて、時代の変化を実感した。現在のアニメ文化を語る上で音楽の存在は欠かせない。アニソンがヒットチャートの上位に食い込むのは当たり前になったし、多種多様なアーティストがアニソンに挑戦している。いまや鈴木雅之のような存在がアニソンを歌う時代である。

 アニソンは、アニメという物語装置に支えられた存在だ。90年代のトレンディドラマが音楽CDの売上に多大な貢献をしたのと同様、アニメという物語体験装置を通して得られる感動や興奮がアニソンへの思い入れに直結している。アニメの内容と音楽の存在が不可分であればあるほど、アニソンへの感動も深まる。近年、音楽を主題にしたアニメ作品は数多いが、ロッキング・オンの音楽アニメプロジェクトもその流れの一環だろうし、これからもどんどん音楽を主題にしたアニメは出てくるだろう。日本アニメにとって、音楽をどう描くかは大きなテーマに一つになっていると言ってもいいかもしれない。

 日本アニメは、架空のキャラクターたちに音楽を演奏させるための様々な努力を重ねてきた。本稿では、その歴史を紐解いてみたい。

・日本のアニメはいつから音楽を描き始めたか
 TVアニメのOPとEDに音楽がついているのは、『鉄腕アトム』の頃から常識だが、音楽そのものをアニメの中で描き出したのはいつの頃だったのだろう。

 はっきりとしたことは言えないが、1971年に虫プロが宇多田ヒカルの母、藤圭子をモデルにした漫画『さすらいの太陽』をアニメ化しており、虫プロの公式サイトによるとこれが「日本初、芸能界を描いたアイドルアニメ」ということのようだ。

 裕福な家庭と貧しい家庭の赤ん坊が、金持ちを嫌悪する看護婦の陰謀によって入れ替えられ、成長した2人はともに歌手を目指すのだが、金持ちの家で育った娘は財力でのし上がる一方、貧しい家庭で育った娘はギターをかついで流しの歌手として酒場を渡り歩くといった内容で、まるで是枝裕和の『そして父になる』のような設定のアニメだ。本作では、声の出演者として、藤山ジュンコなどの歌手を起用し、作中でキャラクターたちが歌う楽曲が実際にリリースされるなど、現在の音楽アニメにも通じるビジネスモデルがすでに試みられている。

 とはいえ、この時点では歌唱シーンや演奏シーンの高度な再現性は見られない。主人公ののぞみが用いる楽器は主にギターのみであり、指の動きもなんとなくそれっぽく見える程度の描写に留まっている。

 その後、アイドルや芸能界をモデルにした『スーキャット』や『ピンク・レディー物語 栄光の天使たち』などが製作されたが、『さすらいの太陽』同様、本格的に音楽シーンをアニメで描くという挑戦はお預けになっている。

 本格的な歌唱シーンが大きな話題になったアニメと言えば、やはり1984年の『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』が最初と言っていいだろう。SFロボットアニメに美少女アイドルの要素を盛り込んだ奇抜なアイデアで一世風靡したTVシリーズの劇場版である本作では、振付師として牛丸謙氏がクレジットされている。牛丸氏はタレントやアイドルの振付師として有名で、浅野ゆう子との共著でジャズダンス本を出版するなど本格的な人物だ。本作のクライマックス、ヒロインのリン・ミンメイの歌唱と動きが一体となった動きは、「板野サーカス」で有名な本作の迫力ある戦闘シーンと比類する見どころの一つとなっている。

 『マクロス』シリーズがユニークなのは、大規模な戦闘シーンと歌唱シーンが同レベルの熱量で描かれた点にあり、本作の存在はその後の日本アニメにおける音楽の存在価値を高めたと言っていいだろう。リン・ミンメイ役の飯島真理は本作によって、最初のアイドル声優と呼ばれることもあるが、今日のアイドル声優ブームの先駆け的な存在であることは間違いない。

・音楽アニメの実在感は実際の演奏者を演出することで生まれる
 振付師が製作参加していると言っても、アニメーターにダンスのレッスンを施すわけではない。基本的には振付を実践したものを動画に納めて、それを参考に作画作業を行っている。この手法を「ライブアクション」と呼んでいるが、今日の音楽アニメの演奏シーンやダンスシーンの多くでこの手法が採用されている。

 例えば、スタジオジブリの『耳をすませば』で、雫と聖司がバイオリン工房で歌い出すシーンもライブアクションが用いられている。この演奏シーンの原画を担当したのは、『海獣の子供』の作画監督、小西賢一だが本人は「雫の声を担当した本名陽子さんが実際に歌う映像を参考にして描いた特別なシーンで、バイオリンの演奏部分も実際に弾いてもらった映像を見ながら作っていきました」と語っている(参考:キャラクターデザイン・総作画監督・演出 小西賢一インタビュー )。

 京都アニメーションの諸作品、『けいおん!』や『響け!ユーフォニアム』(以下、『ユーフォ』)でも、基本的にこのやり方が採用されている。特に大人数で、多数の楽器を用いて演奏する吹奏楽を扱った『ユーフォ』は、4、5人で演奏されるバンドの作画よりもハードルが高かったはずだ。しかし、『ユーフォ』では楽器専門の作画監督(故・高橋博行氏)をつけ、各楽器のフォルムを忠実に再現し、演奏シーンにおいても音に合わせた動きを徹底してリアルに描きこんでみせた。吹奏楽経験者からも感嘆の声が上がる再現度で、音楽をアニメートした作品の最高峰の一本だろう。

 音楽をアニメで描写するという点については、『カウボーイビバップ』で知られる渡辺信一郎監督もこの分野で挑戦を続けてきた作家だ。アニメ監督以外に音楽プロデューサーとしても活動する渡辺氏の音楽に対するこだわりはアニメ作品にも反映されており、彼の監督作品は常に楽曲への注目度も高い。演奏シーンのリアリティにもこだわり、ジャズに打ち込む若者たちの青春を描いた『坂道のアポロン』では、実際にセッションで演奏してもらったものを10台のカメラで撮影し、実写の映像を編集してから作画に臨んだという。さらに劇中のキャラクターの心情を演奏者に理解してもらった上で演奏してもらうなど、アニメにおける演奏シーンの作画は、実際の人物を演出することから始めているのだ(参考:臨場感あふれる演奏シーン 『坂道のアポロン』アニメ制作の舞台裏を公開)。

 渡辺監督の最新作『キャロル&チューズデイ』でも同様の試みは行われている。感覚的な言い方になるが、アニメのキャラクターが音に合わせて動くにとどまらず、「音を感じて」いるかのように描写されており、アニメと音楽の融合が高い次元で果たされている(※実際の撮影風景も確認できる)。

 ライブアクションという英語は、日本語では「実写」を意味する。実写映像をなぞって描くロトスコープとは異なり、あくまで実写映像を参照して描いているわけだが、実際の演奏者をいかに演出するかが肝でもあり、その点において、この手法は実写映画の役者の芝居作りと似たようなプロセスなのだ。

・CG技術が音楽アニメにもたらしたもの
 近年のCG技術の発達によって、音楽アニメの演奏シーンにも新しい波がもたらされた。モーションキャプチャを用いて、3DCGで演奏やダンスシーンを作る手法は、日本のアニメでは一般的になっている。

 『アイカツ!』シリーズや『ラブライブ!』などのアイドルアニメに多く用いられており、『プリパラ』シリーズでは、声のキャストを務める声優ユニット「i☆Ris」自身がモーションアクターを担当するという、現実の役者とアニメキャラの融合とも言えるような試みも行われ、ダンス歌唱シーンの実在感を高めている。


 CGによる音楽アニメで特筆すべき存在は『ラブライブ!』の監督として知られる京極尚彦だろう。京極氏は『ラブライブ!』TVシリーズの監督を務める前から、同作のミュージックビデオを手掛けており、『プリティーリズム・オーロラドリーム』や『KING OF PRISM』のプリズムショーの演出を担当するなど、CGアニメによる音楽アニメの製作を実践してきた人だ。手描き作画とCGの使い分けが上手いことが特徴として上げられるが、楽曲を徹底的に聞き込み、その楽曲が表現しているものがなんなのかを深く読み込んだ上で音楽シーンを作っていることが氏の演出の素晴らしさだろう。

「歌詞のとおりには演出しないようにしていて。というのも、100回以上リピートしていると、“音楽の向こう側”が見えてくるんですよ。表面上の歌詞やメロディとは異なる別の主題や、音楽の側が付けてほしがっている映像がだんだんと見えてくるんです」(『アニメ製作者たちの方法』高瀬康司編、P164、フィルムアート社刊)

 モーションキャプチャとCGは、ダンス歌唱シーンだけでなく、バンドの演奏シーンでも用いられている。その代表的な例は『バンドリ!』シリーズだろう。本作はスマートフォン向けゲームを中心とするメディアミックス作品だが、ゲーム内でミュージックビデオが観ることができる。モーションキャプチャから起こされたリアルな動きとセルルックCGの芝居が高いレベルで融合している見事な作品だ。

 『バンドリ!』シリーズはこれまでに2シーズンのTVアニメが放送されているが、2ndシーズンはMVと同じくフル3DCGで製作された。手描きアニメ主体の1stシーズンでは演奏シーン自体が少なかったのだが、2ndシーズンでは毎週、本格的な演奏シーンを描き、その実在感でアニメファンを唸らせた。アニメ制作を担当したサンジゲンの技術の高さもあるが、演奏に魂を乗せるためのモーションアクターの芝居をこまかにつけていく地道な作業のたまものだろう。

 モーションアクターの動き撮りの取材で(『BanG Dream! 3rd Season』モーションキャプチャ撮影現場に潜入 監督・アクターにも直撃)、監督の柿本広大氏は、「(モーション)アクターさんの演技を活かし尽くす」ことを前提にしていると語っている。モーションアクターにもキャラクターの性格や個性を理解してもらい、それを演奏に反映させているのだ。モーションキャプチャにおいても、実際の演奏者の役作りから始める点はライブアクションと同様なのである。

・実演シーンだけで構成された2本のアニメ映画
 ライブアクションにせよ、モーションキャプチャにせよ、演奏シーンをアニメで作り上げるのは、通常の作画以上の工程を必要とする分、手間暇のかかる作業だ。音楽を題材にしたアニメでも、多くはストレートプレイを基本にしたドラマであり、ここぞという盛り上がり部分にライブのシーンを用意するという構成の作品がほとんどだが、そこに一石を投じるかのように、全編実演シーンで作られたアニメ映画が今年だけで2本も登場した。『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジ LOVE キングダム』と前述の『バンドリ!』シリーズの劇場版『BanG Dream! FILM LIVE』だ。 

 2作品とも、フィクションの映画というより、音楽コンサートを映画館で見る「ライブビューイング」に近い鑑賞体験を目指した作品だ。ミュージシャンにとってのゴールは様々だが、大勢の観客の前でパフォーマンスすることは大きな目標の一つだろう。この2作品は、ある意味でアニメキャラたちがその大きな目標を叶えた姿を描いたものだと言える。どちらもゲームを起点としたメディアミックス作品だが、そのメディアミックスの中で描かれてきた、大きな物語の集大成としてライブがあり、それを映画館で擬似的なライブビューイングとして楽しむことで、実在のミュージシャンを応援するのと同じような体験をファンに与えようとしているのだろう。この2本は、メディアミックスによる物語の語り方と、その中における映画の位置づけを考える上でも非常に興味深い。

 筆者も『BanG Dream! FILM LIVE』を観た時、アニメキャラのミュージシャンは、もはや現実のミュージシャンと変わらないのではないかという感慨を覚えた。この作品に関しては、手持ちカメラの長回しを利用した楽屋裏映像も挿入されるが、演奏シーンの作り込みとともにそのシーンの精巧さも深い次元の実在感を生み出すことに貢献している(映画予告編の最後の数秒にその映像が使用されている)。

 アニメで音楽演奏に実在感を与える試みはこれからも様々な形で続き、さらに洗練されていくに違いない。その先には、リアルと虚構の垣根という概念を超えた、コンテンツ消費の新しい感覚が生まれるかもしれない。

杉本穂高

最終更新:11/12(火) 10:46
リアルサウンド

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