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『銃・病原菌・鉄』から『21 Lessons』まで、人類史や未来論がブームになった背景

11/13(水) 8:30配信

リアルサウンド

 『銃・病原菌・鉄』で知られるジャレド・ダイアモンドの新刊『危機と人類』が10月に刊行され、『サピエンス全史』『ホモ・デウス』で知られるユヴァル・ノア・ハラリの新刊『21 Lessons』が11月に刊行される。

 2010年代以降、ダイアモンドやハラリのように歴史解釈や未来論についての重厚な書籍がヒットしている。

 人文社会科学系の本を好む読者層に届いているだけでなく、ビジネス誌でも『銃・病原菌・鉄』やウィリアム・H・マクニール『世界史』が

・『週刊東洋経済』
2011.11.26号「【特集 さらば! スキルアップ教】--PART2 教養 実践編 教養人になる方法」
2015.04.04号「【第1特集 世界史&宗教】--歴史観を鍛えるブックガイド--「グローバルヒストリー」入門」
2016.12.24号「【第1特集 ビジネスマンのための近現代史】--PART1 「いま」がわかる歴史の読み方」
・『エコノミスト』
2014.02.25号「〔特集〕世界史に学ぶ経済 PART2 これが世界史を変えた 大作を読む」

で取り上げられ、

・『週刊東洋経済』
2018.12.01号「【第1特集 データ階層社会】」
・『週刊ダイヤモンド』
2019.03.02号「特集 人類欲望史1万3000年で読み解く 相場 経済 地政学 今が全部 ヤバい理由」

でハラリやジャレド・ダイアモンドの本が大きく取り上げられるなど、なかば定番ネタと化している。

 これらはどのように括られ、人気の理由はどう語られてきたのか?

■「世界史」ブームから「人類史」ブームへ

 ジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』は2000年に邦訳された時点でいわゆる読書人には注目されていたが、爆発的なヒットになったのは2012年に文庫化されて以降である。

 2012年には網野善彦『日本の歴史をよみなおす(全)』(ちくま学芸文庫)、マクニール『世界史』とともに歴史本が流行し、「朝日新聞」2012.05.14東京夕刊「来し方・行く末、本に求め 日本史・世界史がブーム 文庫で手軽、震災後の時流映す?」や「産経新聞」2012.05.17東京朝刊「【広角レンズ】「世界史」本 なぜ人気 歴史の転換期…過去に学びたい」など新聞上でも取り上げられた。

 朝日新聞の記事によると「この十数年[引用者註:当時]で売れた歴史書は『日本社会の歴史』など、主に日本史を扱ったものが多かった。その中でオーソドックスな世界史概説書であるマクニールの『世界史』が売れたのは「画期的なこと」(中央公論新社販売促進部次長の東山健さん)で、女性や若い世代など、歴史書の新たな購買層が掘り起こされた可能性がある」とのことだった。

 これがハラリの『サピエンス全史』刊行後になると、「世界史」という括りから「人類史」ブーム、ないし「文理融合の歴史」人気という括りに変わっていく。

 「中日新聞」2017.01.24朝刊「記者の眼 盛り上がる「人類史」研究」では『サピエンス全史』を『銃・病原菌・鉄』、マクニール『世界史』と並べて「人類の通史をつづる」本とし、宇宙の誕生に始まる長大な歴史を、文系理系の知を融合して学ぶ「ビッグヒストリー」という授業も各国で広がる、としてデヴィッド・クリスチャンの試みを紹介する。

 ほかにも「産経新聞」2017.03.06東京朝刊「【広角レンズ】翻訳歴史本に新トレンド 世界成立の「なぜ」に文理融合で」などがほぼ同様の趣旨と本のセレクトの紹介記事として書かれている。

■人気の理由は「地球が危機」だから

 ではどうして人気なのか――という理由はどう語られてきたのかを見てみよう。

1)歴史に教訓を求めているから

 歴史家の山内昌之(東京大学名誉教授)は「歴史を学ぶと、全く違う時代の出来事に現代と同じような構造があることを見いだせる。時代の転換期に不安を感じ、世界の中の日本の行く末を考えるとき、歴史に教訓を求めるのは当然」と分析している(「朝日新聞聞」2012.05.14東京夕刊「来し方・行く末、本に求め 日本史・世界史がブーム 文庫で手軽、震災後の時流映す?」)。

 いわゆる「今現在の課題を歴史に学びたいから」というやつである。

 ダイアモンド自身も「先進国の課題は伝統的社会にヒントがある」的なことを言っている。

 しかし、これだけでは、なぜダイアモンドやハラリなのか? なぜ局所的な地域史ではなく、1980年代に日本のビジネス誌がよくやっていたような「戦国大名に学べ」ではないのか? の説明がつかない。

2)単一の簡単な見方に基づいて過去・現在・未来を、極小と極大から俯瞰したいから

 出口治明(立命館大学APU学長)は「マクニールの大きな特徴は、文明や社会をできる限り融合的に捉えて、その全体像を平易に提供しようとする姿勢にある。本人が述べているように、「単一の簡単な見方に立って、短く(世界史が)書かれている」ことが極めて重要である」と語る(「エコノミスト」2014.02.25号「〔特集〕世界史に学ぶ経済 PART2 これが世界史を変えた 大作を読む」)。

 ようするに、視点がはっきり定まった状態で歴史を語り、なぜ今の世界がこうなっているのかが語られていくので見通しがよい、というわけだ。

 『銃・病原菌・鉄』なら「五大陸の文明の違いは気候・環境の違いに由来する」、『サピエンス全史』なら「他の動物にはない『虚構』を信じる力が身体の弱い人類が地球の覇者になれた理由だ」といった具合に、上下巻で分厚い本だが、視点と結論が明瞭である。

 「朝日新聞」2017.02.26東京朝刊「(ひもとく)科学で見る人間の歴史 壮大な視野で「20万年」見直す 渡辺政隆」では「人類の意味、人生の意味を知るには、壮大なスケールと身の丈のスケール両方の視点が必要なのだ」と書かれている。

 こちらはようするに、ダイアモンドやハラリ、ビッグヒストリーものは、宇宙のはじまり(または現生人類のはじまり)から現在、そして未来までというタイムスケール、あるいは極小と極大の両極から全体を俯瞰したい、という欲求に応えてくれる本だから支持されている、という説明だ。

 逆に言えば、今現在われわれは歴史や地球、宇宙の全体がまったく見通せないし、そのための物差し、道具を持っていないことに不満や不安を抱いている、ということになる。

 つまり、なぜ「戦国大名に学べ」ではなく「人類史レベル、地球史や宇宙の歴史レベルで学べ」になるかと言えば、目下、人々が直面しているのが世界レベル、地球レベルの危機であり、人類の存亡に関わる(かもしれない)という不安を人々が抱いているからであり、だからこそ地球全体に関わる、超長期スパンでの歴史を見通す物差しが欲しい、というわけだ。

3)地球が危機だから

 このように「なぜ人類史スケール、宇宙史スケールで俯瞰したいかと言えば、目下、人々が、地球が危機だと感じているからだ」という理屈が、最近のトレンドである。

 「中日新聞」2017.01.24朝刊「記者の眼 盛り上がる「人類史」研究」では『サピエンス全史』その他のブームの背景として「社会の行き詰まり感を多くの人が深刻に感じていることが挙げられる。例えば、格差が広がる資本主義社会はこれからどうなるのか。地球環境はどうなるのか」という意識があることを挙げる。

 ハラリ自身も「ナショナリズムに閉じこもっていては地球規模の問題は解決できない」と言うなど、国際的、地球規模だが自分たちにも降りかかる厄災、リスクを考えたいからこういう本が読まれるのだ、と語っている。

 そしてダイアモンドもハラリも、当初は「通史を語る人」として登場してきたのが、ダイアモンドは『文明崩壊』あたりから、ハラリは『ホモ・デウス』から、人々の未来に対する不安に答える(ないしは不安に同調し、煽る)「予言者」ポジションにシフトして、世の中のニーズを満たすようになった。

 そうして「過去が語れるから、きっとこの人は未来もわかるのだ」と思って、僕らはダイアモンドやハラリの新刊を手に取る。

飯田一史

最終更新:11/13(水) 8:30
リアルサウンド

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