ここから本文です

「身の丈」教育を全否定したノーベル賞

11/13(水) 8:30配信

JBpress

 10月後半からの相次ぐ天災人災で、後回しになってしまったノーベル賞解説、今年の経済学賞を考えるうえで、実に「典型的」な発言がありました。

【写真】2019年度ノーベル経済学賞を受賞した3人のうちの1人、マイケル・クレーマー氏。ポーランド系ホロコースト難民の両親のもとで教育を受けたユダヤ系米国人。

 「身の丈にあった受験」という、某国の文教閣僚による発言です。

 このようなことがあってはならないというのは、ステートメントとしては、つまり理念としてはよく分かります。

 しかし、では「正しい理念」を押しつけるだけで、問題は解決するのでしょうか? 

 私はここ22年、国立大学に教籍をもっていますが、試験とは筆記式のテストだけで、それ以外は便法の偽物だと思っています。

 しかし50万人の受験生に、2週間程度の採点期間で、公平に実施できる記述式試験などというものは原理的に困難です。

 なぜ困難か、モデルを立ててシミュレートすれば、理論的に確実に評価することができますから、考えのない拙速な導入は教育破壊の行為であると明言することになります。

 同様のことが「貧困撲滅」にも当てはまります。

 一部の人を貧困状態にとどめ置くのは良くない・・・。

 しかし、いまや日本を含む全世界が、一部の人ではなく市民の大半をその淵に押しやりかねない勢いです。

 さて、今年のノーベル経済学賞を「米国の3氏」と報道するメディアがありましたが、まさに笑止千万と言わねばなりません。

 アビジット・バナジーは1961年にコルカタで生まれたインドの経済学者で、アジア出身のノーベル経済学賞受賞者は1998年のアマルティア・セン以来2人目です。

 またエスター・デュフロ(1972-)は正真正銘のフランス人で、かつてはバナジーの指導学生であり、現在は夫人でもあります。

 2人はたまたまMIT(マサチューセッツ工科大学)の教授を務めているのであって、第三世界の貧困を定量的に評価する彼らの仕事を「米国の経済学者」として紹介するのは、相当ネジの緩んだ報道機関と言わねばならないでしょう。

 第3の受賞者、たまたまですが私と同い年にあたるマイケル・クレーマー(1964-)だけが米国人と言えば米国人ですが、彼を特徴づけるのはむしろユダヤ人というルーツでしょう。

 ポーランド系ホロコースト難民の両親のもとで教育を受け、ハーバード大学で学びMITに勤務して、バナジーやデュフロたちのグループと共に仕事をし「開発経済における実験経済学的手法を確立した」ことで、今回のノーベル経済学賞を受賞しました。

 これは、どういうことなのでしょう? 

■ 根拠に基づく貧困撲滅

 一つ個人的な経験を記したいと思います。

 2008年、私はルワンダ共和国大統領府の招聘により、6週間ほどルワンダに滞在してジェノサイド現場を多数視察しました。

 ジェノサイド事犯の裁判にも出席し、放送メディアを濫用して発生したあのような犯罪の再発を、ルワンダ国立大学、キガリ工科大学、ルワンダ国立放送局などとともに検討する仕事を手がけました。

 このおり、ルワンダ国立大学から名誉博士を受けた緒方貞子氏と同国閣僚たちとランチミーティングを持ったのも懐かしい思い出です。

 やや個人的なことになりますが、先日亡くなられた緒方さんは旧姓を中村さんと言い、私の母と小学校から今日の大学教養にあたる女子高等専門学校まで同級生であったので、ローカルな話で盛り上がりました。

 私の死んだ母もあの手の、ある種の理念が服を着て歩いているようなキリシタン婆でありましたので、変なところで正義感が強く、その影響というか被害によって私自身、今この連載のような原稿を書いている経緯があります。

1/4ページ

最終更新:11/13(水) 12:45
JBpress

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事