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18歳の大人たちに、糧となるのはしっかりとした法教育 vol.3

11/14(木) 8:03配信

Meiji.net

18歳の大人たちに、糧となるのはしっかりとした法教育 vol.3

星野 茂(明治大学 法学部 准教授)

2018年6月、成年年齢を20歳から18歳に引き下げる改正民法が成立しました。若者の社会参加を促す狙いがありますが、一方で、ローンなどを自由に組むことができるようになるため、過重な債務に苦しむ若者が増えるのではないかと、懸念する声が出ています。しかし、そうした問題も含めて、日本の社会のあり方や制度を見直す良いきっかけになるという指摘があります。

◇認知症の高齢者の意思も尊重するのが成年後見人

もうひとつ、本人の意思や自主性を尊重する社会のあり方を考える上で見過ごせないのが、高齢者保護の問題です。2016年に、成年後見制度利用促進法が施行されました。成年後見制度とは、認知症などで判断能力が衰えてきた人に代わり、財産管理や契約行為、身上監護を行う制度です。

本人や配偶者、親族、市区町村長などが家庭裁判所に申し立てて成年後見人を決める法定後見と、本人が事前に後見人となる者を決めて契約を結ぶ任意後見があります。この制度の背景には、2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人は認知症患者で、その数は700万人を突破するといわれていることがあります。

ところが、高齢者の面倒は親族が見るという日本社会の従来の仕組みが、機能しなくなってきています。例えば、子どもたちは都市部で生活し、地方で暮らす高齢者の身近には親族がいないというケースが多いのです。

それでも、厚労省などは親族後見に戻そうとしていますが、現実には、成年後見の6割近くは第三者後見です。特に、自治体などは市民後見制度を推進しています。ボランティアで後見人を務める人を募集し、後見人としての教育を施した後、実務についてもらっています。

弁護士や司法書士などに後見人を依頼すると、預金通帳の管理くらいでも月2万円ほどの費用が必要で、管理する財産が増えれば費用はどんどん加算されていきます。費用を気にすることなく後見人を頼める市民後見制度は、今後、ますます必要不可欠な社会制度になっていくものと思います。

欧米では、公的な団体が後見人になる公後見制度(Public Guardianship)が整えられていますが、さらに日本と違うのは、財産管理や身上監護に関する考え方です。認知症の高齢者であっても、本人が望むこと、やりたいことをかなえることが基本なのです。

日本では、認知症により判断能力が衰えているのだから、後見人が意思決定を代行してあげるべきと考えがちですが、無駄に財産が減ることになっても、後見人は本人の意思決定を代行してはならないという考え方が、成年後見における世界のスタンダードです。

この背景には、19世紀のイギリスの哲学者ジョン・スチュワート・ミルが著書「自由論」の中で論じた、愚行権があるのかもしれません。他者に危害を与える行為は法的な規制や処罰の対象になるが、他者危害に及ばない限り、それが社会的には愚かしい行為であっても、社会や国に介入されるものではない、という考え方です。

このように健常者であっても認められる愚行権であるならば、認知症高齢者や精神障害をもつ人であっても認められてよいはずです。

この愚行権に沿っているような、成年後見人は本人の意思決定支援をしても代行はすべきではない、という考え方が国連の障害者人権委員会でも原則とされています。これに反し続ける日本の成年後見には、国連が勧告してくることもあり得ると思います。

今回の成年年齢の引き下げ、また、同性カップルの保護、成年後見制度は、いま、私が注目するテーマですが、その根源は同じで、本人の意思を尊重する社会をいかに形成していくのか、ということです。

そのために重要なのは、やはり教育です。社会と自分の関わりについて、法の観点から学ぶことは有意義なひとつの方法だと考えます。成年年齢の引き下げを契機に、法教育の気運が高まることを期待します。

※取材日:2018年9月

星野 茂(明治大学 法学部 准教授)

最終更新:11/14(木) 8:03
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