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能力はあるけど「出世したくない若者」に、おじさんはどう応える?

11/14(木) 11:01配信

現代ビジネス

「リーダー」もさまざま

 『職場の紛争学』は、経営・人事コンサルタントである著者の各務晶久氏がさまざまな現場での事例解決を通じて、職場で起きる紛争の原因と解決策について論じた実用性の高い本だ。

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 以前より言われていることであるが、中間管理職の人選が組織の活性化にとって死活的に重要だ。

 〈言い古された表現であるが、優秀なプレーヤーが名監督になるとは限らない。したがって、プレーヤー時代の業績とは別の視点で管理職を選抜すべきだ。(中略)

 彼、彼女を「優秀」たらしめたのは、昇進前の「業績」や「能力」である。それをもとに管理職の選抜を行うとミスマッチを起こすのは当然といえよう。

 本来は管理職として必要な「業績」や「能力」を発揮できるかどうかを選抜の尺度にしなければならない。体重を量るべきところ身長を測っていたのと同じで、測定要素が正しくなかったということだ。

 管理職に求められる要素の中で、特に重要なものがリーダーシップだ。1人で仕事をしていた時と比べ、部下をまとめ、部下の業績を高める必要があるからだ〉

 と各務晶久氏は指摘する。確かにリーダーシップは重要だ。ただし、リーダーシップにもさまざまな種類がある。評者の場合、25人くらいまでの少数精鋭集団をまとめあげることは得意だ。しかし、それ以上の大きな集団のリーダーになる資質はない。

 自分がまとめた少数精鋭集団と周囲の関係が先鋭化し、感情的対立に発展することが少なくないからだ。大きな集団をまとめるリーダーシップにはある種の「鈍感力」が必要とされる。個々人の能力を最大限に鍛え上げる精鋭集団を作るときの手法は通用しない。

 職場において面倒なのは感情的対立だ。この点についても各務氏は特別の注意を払っている。

世代間で軋轢が生まれるワケ

 〈感情の対立は、条件・認知の対立状態が続いたり、その経験がもとになったりして起こる心情面の対立である。

 感情の対立は単独で発生することはまれで、条件の対立や認知の対立が起こった後の2次的対立として起こることがほとんどだ。

 いったん感情の対立が起こると、1次的な対立(条件の対立や認知の対立)は捨て置かれ、解決が難しいほど深刻な対立に発展しがちだ。

 例えば、テレビのボリュームを下げてほしいと隣家に申し入れたところ、その後何年にもわたり隣家から嫌がらせをされたケースなどがこれにあたる。きっかけは条件の対立だが、感情の対立に発展したのだ。

 世界中にあふれる民族紛争や国家間の争いの中には、当初領土問題などの条件の対立であったり、宗教問題などの認知の対立であったりしたものが、もはや当事者同士でさえ原因が何だったか思い出せないほど、感情の対立が長期化しているものが多い。

 このように、感情の対立は、「条件の対立」「認知の対立」に比べて、解決の難易度が格段に高い対立である〉

 企業でも役所でも、路線闘争や派閥抗争はある。ここから生じる紛争には必ず感情的対立が伴うので厄介だ。一方が他方を制圧するか、互いに悪い目つきで相手を睨みながら並存するしかない。

 これらはいずれも以前からある職場の紛争だ。それに加えて最近は若手ビジネスパーソンのキャリアパスに関する意識が変化し、これに対する対処で企業も役所も苦慮している。

 〈多くの日本企業ではこれまで、社員のロイヤリティを高め、上昇志向をあおる人事マネジメントを行ってきた。これは長期雇用を前提にしたマネジメント手法だ。

 しかし、人材の流動化が進むにつれ、帰属先の軸足を所属する企業ではなく、社外の専門家社会に移す人たちが増えている。勤務先の企業よりも、企業外のコミュニティで認められることを優先する人たちだ。

 いままでも、研究者、建築家、デザイナー、コピーライター、弁護士、医師、コンサルタントなどの専門職の中で、トップクラスの人材にそういった傾向が見られた。

 彼らにとっては、所属組織内でどのようなポストに就くかよりも、業界内で名前が売れることのほうがはるかに重要だ。

 これまで一部の専門職だけに見られる傾向だったが、現在では企業の中にもこのような志向の人たちが増加している。

 彼らは、そもそも長期勤続を前提に職を選んでいない。それよりも従事する仕事が自分の興味に合致しているかどうか、さらにいえば、仕事を通じてスキルアップが出来るかどうかに関心が高い。その反面、社内で高い役職に就いたり、権限を行使したりすることにはあまり関心がない〉

 企業であれ、役所であれ、ポストが上昇するにつれて権限も所得も拡大する。その可能性を与えられても拒否する人が出るという事態は、上司にとって想定外なのである。

 〈上昇志向の強い生え抜き社員は、このような人たちの考え方が理解できない。「役職に就きたくない」という表面だけをとらえ、「やる気がない」「責任を引き受けない」などと言って彼らを批判し、軋轢を生む。彼らが準拠しているのは外部集団であり、その活動実態が把握できない点も、コンフリクトに拍車をかけてしまう〉

 評者も若手の会社員や官僚から、「この組織にいても展望がないので、転職したい」という相談をときどき受ける。それに対して評者は、「僕の場合、鈴木宗男事件に巻き込まれて外務省を去らざるを得なくなった。僕が職業作家として自立していくことができるようになったのは偶然だ。僕と同じレベルの文章力を持った外務官僚はいくらでもいる。組織を飛び出しても成功する人は、運のいいごく一部に過ぎない。慎重に考えた方がいいよ」と答えている。

 組織には、人の能力を引き上げてくれる面がある。この現実を過小評価してはならない。

 『週刊現代』2019年11月2・9日号より

佐藤 優

最終更新:11/14(木) 11:01
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