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井上尚弥の左フックを読み切った、世界最高のボクシングカメラマン。

11/14(木) 18:01配信

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 カメラマン福田直樹は、リングサイドで集中力を高めていた。

 11月7日、さいたまスーパーアリーナ。ボクシングWBSSバンタム級決勝、井上尚弥対ノニト・ドネア戦が始まろうとしていた。

【秘蔵写真】鬼気迫る表情の井上尚弥とヒョロっとした高校時代、伝説の70秒KO劇、ドネアの戦慄左フック、辰吉vs.薬師寺の死闘、ヤンチャな亀田親子にタイソン…名ボクサーの若き日。

 通常福田がリングサイドで試合を撮るときには、1ラウンドは両選手の相性や調子を見て、2ラウンド以降に本格的に撮ることが多い。だがこと井上に関しては違う。

 「初回から何があるかわからないので、撮るほうも早くからエンジンをかけないといけない。逆に最初から全力で撮れるとも言えます」

 福田はボクシング編集者、ライターを経てカメラマンに転身。渡米してキャリアを積んだ。2008年から権威あるボクシング雑誌、リング誌のメインカメラマンを8年務め、全米ボクシング記者協会最優秀写真賞を4度受賞している。

無駄なものが1つもない完璧な選手。

 いわば世界最高峰のボクシングカメラマンである福田をして、井上はかつて見たことがない選手なのだという。

 「30年以上見てきて、すべてのいいところを集約したような、無駄なものをすべてそぎ落としたボクシング。しかもパワーもあり、完璧なフォームで完璧に仕上げてくる。普通は選手の癖を見て、動きを考えながら撮りますが、井上選手は余計なことを考えずにのめり込んで撮れるんです。まあそのぶん、早く終わってしまったりという難しさもあるんですが」

 この試合も、早期決着での井上圧勝を予想する声が大半だった。実際、立ち上がりの井上は好調だった。

 「出だしからジャブがよくて、ドネア選手の反応も良かったですが、いい状態なので1、2、3ラウンドは気を抜けないな、と思っていました。両選手の決定打の左フック対決になると思って、左フックに合わせるようなタイミングで撮っていました」

左フックから右ストレートの距離へ。

 だが、2ラウンドにアクシデントが起きる。ドネアの左を被弾した井上が、プロで初めて右まぶたをカットし、流血したのだ。

 「目には(血が)入るだろうし、ドネアは左フックがあるので、ちょっと怖い展開になったとは思いました。でも次の回には出血も止まっていたので、セコンドも凄いな、と。ただそこから井上選手が、あるいはお互いにかもしれませんが、慎重に、ちょっと距離を取ってきたので、キーパンチが左フックからお互いの右ストレートになってきた。ですから中盤は右を打ち込めるタイミングに注目しながら撮っていました」

 フィルムの時代から撮影している福田は、戦っているボクサーと「同化する」ようにして試合の流れを読み、決定的な場面を狙うのだという。カメラの連写機能も追いつかない0.01秒のズレでヒットの瞬間を逃してしまうボクシング撮影において、「パンチを予見する男」と呼ばれる所以である。

 そして福田の予想どおり、中盤5ラウンドに井上の右ストレートが決まってドネアをふらつかせた。井上の右拳がドネアの顔面を捉える瞬間を、福田のシャッターもまた的確に捉えていた。

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最終更新:11/14(木) 19:46
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