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又吉直樹「僕は浮かれようがない。若い時に勘違いを経験しているから」

11/15(金) 11:01配信

現代ビジネス

 又吉直樹、初の長編小説『人間』(毎日新聞出版)に刻印されているのは、又吉という「人間」そのものである。作品で描かれる共同住宅、通称「ハウス」には何者かになろうとするイラストレーターや芸人、作家ら表現者たちが集う。登場人物たちは「幸福な無名時代」を生きながら、もがき、理想とは違う形での成功や周囲の評価に苦しむ。又吉は3作目で何を表現したのか。

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 (取材・文:石戸諭/写真:ヨシノハナ)

又吉直樹『人間』と太宰治『人間失格』

 東京・九段下――。皇居近くにある出版社の会議室に現れた又吉は、少しばかり疲れた表情に見えた。それも無理はない。この日は集中的に取材を受ける日でもあり、集まってくるメディアの多さは、世間をあっと言わせた芥川賞受賞以降、高まり続ける注目を証明していた。拍車をかけたのは、キャリアがある小説家が名を連ねる新聞小説を、異例とも言える早さで又吉が引き受け、さらに一冊の長編として世に送り出したことだ。

 《あまり細かくプロットを決めずに、書きながら話を決めていきました。文芸誌だったらあらかた書いたものを編集者に送って、感想をもらって書き直して、場合によってはがらっと書き直すということもあるんですけど、新聞は1回ごと短い話が次々と掲載されていきます。これまでとはちょっと違いましたね。》

 主人公の永山は38歳で、漫画家を目指して大阪から上京した。現在は絵やエッセイを書くことで生計を立てているが、目指していた道では成功は手にいれることができなかったという人物だ。若い時に書いた漫画ではない作品が出版され、一定の成功を手にしたが、それがきっかけになりハウスの仲間たちと溝もできた。

 永山の年齢は執筆時の又吉の年齢と重なる。そして、彼自身が傾倒する太宰治が『人間失格』を書き始めた年とも。

 太宰は『人間失格』の主人公の人生に、おそらくは色濃く自身の人生を投影させている。『人間』というタイトルが、太宰へのオマージュであることは間違いない。又吉は登場する人物たちに「又吉直樹」という「人間」を投影させているとも読める。

 例えば永山と同時に主要な登場人物でもあるお笑い芸人の影島は、芸人でありながら小説を書き、芥川賞を受賞している。外見も「のびたままのウエーブがかかった長髪」で、まさに又吉自身の「影」でもある。

 《『火花』(文藝春秋)や『劇場』(新潮社)を書いた時に、自分と同じだと読まれることが多かったんですね。『火花』は芸人の話で、『劇場』は劇作家なんだけど、僕の話として読まれました。ここまできたら、今回は自分と重なって読まれることを一切気にせずに、前作以上に自由に書きました。

 僕は他人が書いた好きな小説でも、これは自分だなと思いながら共感して読むタイプです。そんな僕が小説書いたら、主要な登場人物が、僕の全く共感できない人間になるということはありえないんです。だから、永山にしても、影島にしても結局は僕がでていると思います。

 永山の言動に共感しつつ、でもちょっと違う角度から、永山が持っていないものを補完するのが影島という存在です。影島が出てくることで、永山という人間がよりわかる。》

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最終更新:11/15(金) 12:40
現代ビジネス

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