2010年代に登場した新進絵本作家でもっとも成功した人物のひとりに、ヨシタケシンスケがいる。
又吉直樹「僕は浮かれようがない。若い時に勘違いを経験しているから」
2018年にポプラ社が行った「小学生がえらぶ! “こどもの本”総選挙」で、ヨシタケの絵本は2位に『あるかしら書店』、3位に『りんごかもしれない』、7位に『このあとどうしちゃおう』、10位に『りゆうがあります』がランクインしている。
さらに学校読書調査を見ると、2018年には小4男子の9位に『りゆうがあります』、11位に『このあとどうしちゃおう』と『りんごかもしれない』が、小4女子の1位に『りんごかもしれない』、7位に『りゆうがあります』が、小6女子の14位に『りゆうがあります』がランクインした。
驚異的な人気と言えるが、しかしよく考えると、小学校中学年から高学年が絵本を読んでいる、ということ自体いささか異常事態ではないだろうか。
たとえば渡辺暢惠『学校図書館入門』(ミネルヴァ書房、2009年、210ページ)には小学生の学年別のおおよその読書傾向が書かれているが、
第1学年:読み聞かせをしてもらい、本の楽しさを知り、自分で読み始める。図鑑が好きだが、写真や絵を中心にみている。
第2学年:少し長い物語が読める。図鑑に関心を持って説明の文章をよく読んでいる。
第3学年:怪談シリーズなどの面白い本のシリーズを進んで読む。
第4学年:文字が小さいシリーズが読めるようになる。本をよく読む、読まないがはっきりしてくる時期である。
第5学年:内容のある物語、ミステリーを読む。小学校向き文庫サイズの本を読む。
第6学年:こころの問題を扱った本が読めるようになる。歴史、名作、話題になった本を読む。
とある。中学年以上は「文字が大きい絵本」は読まないのが、かつての常識だったはずだ。
なぜヨシタケシンスケは小学校中学年から高学年にまで支持されているのか。
メディアで「絵本が売れている」と特集が組まれるようになるのは2010年代半ば以降のことである。
出版科学研究所の「出版月報」2016年6月号「絵本 好調の背景を探る」によれば、絵本新刊1点あたりの発行部数は、90年代後半は約7700冊で推移し、01年には9000冊まで上がったものの、それ以降は減り続け、2010年代半ばはおよそ5000冊とピーク時の約半数になった。しかし、2015年以降に急増している。
さらに、「絵本大ブームの理由」と題して小特集を組んだ「日経トレンディ」(日経BP社、2017年4月号)は、近年の絵本はSNSの話題をテレビが取り上げることでヒットになるとし、西野亮廣『えんとつ町のプペル』、カール=ヨハン・エリーン『おやすみ、ロジャー』、のぶみ『ママがおばけになっちゃった! 』などがその例であるとする。
同誌は絵本ブームの理由を、次の4つにまとめている(73~76ページ)。
「大人の心をつかむ」(若手作家の常識にとらわれない試み)
「ネットで拡大」(テレビやSNSを経て人気が増幅)
「すぐに試せる」(実際の購入に結びつく“全文試し読み”)
「売り方も変わった」(展示会やフェアで絵本がより身近に)
つまり、「大人の人気により、絵本市場で新進作家がブレイクするケースが増えた」と分析している。未就学児や小学生はSNSを基本的に使わないので、「SNSのおかげ」と「大人のおかげ」はほとんどイコールである。
ヨシタケシンスケも、大人の間で人気が高い作家だ。
第6回MOE絵本屋さん大賞2013で、デビュー作の『りんごかもしれない』が1位になって以降、第7回(2014)で『ぼくのニセモノをつくるには』が9位、第8回(2015)で『りゆうがあります』が1位、第9回(2016)で『もうぬげない』が1位、『このあとどうしちゃおう』が2位、第10回(2017)で『なつみはなんにでもなれる』が1位、『つまんないつまんない』が3位、第11回(2018)で『おしっこちょっぴりもれたろう』が1位、『みえるとかみえないとか』が2位と、毎年のようにトップクラスの得票を得ている。
この「MOE絵本屋さん大賞」は全国の絵本専門店・書店の児童書売り場担当者が選出するもので、いわば「本屋大賞」の絵本版だと言える。つまりヨシタケシンスケは“大人の”書店員にもっとも推されている絵本作家のひとりでもある。
最終更新:11/16(土) 10:01
現代ビジネス
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