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享楽的なポップが溢れた80年代に怒りの拳を突き上げたアーティストたち<戦うアルバム40選・’80年代編>

2019/11/16(土) 15:31配信

HARBOR BUSINESS Online

巧みにメッセージを込めたカバーアルバムも

『Covers』RCサクセション(1988)

「日本のロック史において最も政治的なアルバムは?」という問いがあった場合、間違いなく一位に選ばれるであろうRCサクセションの、当時を揺るがせた問題作。「素晴らしすぎて発売できません」の新聞広告も話題を呼んだ。

 おそらくチェルノブイリについて言及した、世界でも最初期のプロテスト・ソングを収録している点でも貴重だが、それに加え、忌野清志郎の高い音楽咀嚼能力と諧謔精神も絶妙に光っている。「明日なき世界」や「サマータイム・ブルース」といった50~60sのレベル・アンセムに対しては、オリジナルの意図をしっかり汲み取った上での独自発展があり、本来全く政治的なものとは関係なかった「ラヴ・ミー・テンダー」は空耳的な語感を逆手に取った洒落たセンスでロマンティック・ナンバーを最大のプロテスト・ソングに変えた。

『Scum』Napalm Death(1987)

「メタルで“戦うアルバム”を一枚」と言われると、なかなか難しい。スラッシュ・メタルなどに時折それらしい作品もあるが一貫性に欠けたり、マッチョな白人男性を中心にリスナーが保守性を帯びやすいためだ。その中で一貫してプロテストな姿勢を貫いているのが、“グラインド・コアの元祖”とも呼ばれるナパーム・デス(Napalm Death)。

 UKハードコア・パンクの影響を受けた高速のリズムと、重低音をフルに下げたギター・リフの合間からデス・ヴォイスで叫ばれる言葉の数々は、言葉数を抑えたミニマルな表現ながら、社会への怒りのメッセージが込められている。現在でも名盤の誉れ高いこのデビュー作では、巨大化するキャピタリズムの中で享楽する人々を憂い、夢が失われた現実に怒りをぶつけ咆哮する姿が描かれている。

戦う女性の道を切り開いたポップアイコン

『Like A Prayer』Madonna(1989)

「戦う女性」ということで言えば、ポップ・ミュージックの世界において、女性の立場を永遠に変えることとなったゲーム・チェンジャー、マドンナ(Madonna)の存在を忘れるわけにはいかない。

 「何を歌っているか」以前に、性表現の自由や、女性の実業的な社会進出において、男性社会とはデビューの頃からずっと戦い続けている彼女だが、そんな彼女の若き日における最初の頂点が、このアルバムのタイトル曲。歌詞では、「イエスに禁断の恋心を抱いてしまった少女」を描き、ミュージック・ヴィデオでは、カトリック教会における黒人差別を糾弾。その主張はついに宗教的な因習にまでたどり着いてしまった。さらに「セカンド・ベストじゃダメなのよ」と歌われる「Express Yourself」も、2010年代に音楽界で猛威を振るった「フィーメール・エンパワメント・ソング」を四半世紀先取っていた。

『Freedom』Niel Young(1989)

「反抗することは若者の特権」という、この当時までのロックにでさえ当てはめられていた固定概念を完全に覆したことで、ニール・ヤング(Niel Young)の本作はかけがえのない意味がある。すでに40代半ばにさしかかっていた“ヤッピーになれなかったヒッピー”は、ここで自分を奮い立たせるように、これまで以上の激烈なエモーションと共に、「自由な世の中でロックし続けろ」と、「人生の終わりなき戦い」を主張。この「Rocking In The Free World」はその後、パール・ジャムを始め、多くのロッカーに歌い継がれるアンセムとなった。

 この曲をはじめとし、本作では彼本来の、社会の現実を直視し、その矛盾への怒りや嘆きを訴えたスタイルへと回帰。かつて「錆び付く前に燃え尽きたい」とも歌った彼だったが、その感性はまだ錆び付いてさえもいなかったことを証明し、70歳を超えた現在に至っている。

<取材・文/沢田太陽>

ハーバー・ビジネス・オンライン

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最終更新:2019/11/29(金) 21:12
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