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身にも懐にも優し過ぎる城南のパラダイス「牛太郎」。 今宵、入りづらい古典酒場へ!第1夜

11/18(月) 17:06配信

Pen Online

「今日は幸せになれるよう、一所懸命に歌いますから!そして、来年は、また一所懸命働きましょう」。
客のみんなに会長と呼ばれて慕われる、小枝さんの乾杯の音頭を聞いたとたん目頭が熱くなったのは、きっと僕だけじゃないはずだ。
忘年会後の行きつけだった目黒のカラオケスタジオがなくなって、五反田のBOXでいちばん広い部屋を貸し切った僕ら牛太郎の客たちにとって、彼は店主の城(じょう)さんと同じくらいのレジェンドだ。

その名前を初めて見かけたのは、水道橋博士さんのブログだった。勇気を決して入った常連だらけの古典酒場で、旧知のように優しく話しかけてくれ、そのままスナックの梯子に連れて行ってくれたハンチングの紳士。僕はその人に会いたくて、初めて武蔵小山の関所、「牛太郎」の暖簾を潜った。

やきとりって何だ?立会川「鳥勝」で世紀の謎を究明する。

店の真ん中に鎮座する見事なコの字カウンター、その広さは中に渋谷のんべえ横丁の店が1軒丸ごと入ってしまいそうだ。広いカウンターの中で、センターと、向かって左側の冷蔵庫の間を飄々と往来する長身の男性が現代の店主、城さんこと新井城介さんだ。

何を頼もうか、視線を四方に泳がせていたら、ハンチングの男性が話しかけてくれた。小枝さんだ、思わず胸が弾んだ。
「若いんだから、とんちゃん頼むといいよ、名物だから。俺はもうトシだから、コレ、冷やしトマトの冷え過ぎてないの」、皺が刻まれた笑顔が優しい。

初めて行った頃には、まだ焼き台前にお母さん、真ん中の鍋まわりにも店の名物であるとんちゃん番のシゲさんがいた。歴史が刻まれた壁や天井、セピア色にスモークされたメニューの紙、創業時に業者たちから贈られた祝いの額など、昨今にリメイクされた居酒屋のレプリカでは決して再現できない風格が店を包んでいる。

しかし、決して牛太郎は厳めしい店ではない。ただ、現在は1日のほとんどをワンオペで取り仕切っている城さんのペースを守るために、オーダーは聞かれるまでキチンと待とう。近年、少しずつ開店時間が早くなったのも、一度にオーダーが集中すると対応できないからだ。

本来の開店時刻前に、そっと裏口から入って酒を待つ常連たち。そのオーダーはだいたい決まっているから、城さんは自分のリズムで客の前に酒と料理を並べて行く…。待ちに待った暖簾が掛かり、開店と同時に席が埋め尽くされても、新しい客だけのオーダーを取ればいい。

ところが心ないメディアが「暖簾が入っていても、常連たちは裏の入口からそっと入る」などと、面白おかしく報道する。すると、一見の客たちが通を気取って、裏口から入って来たりするのだ。ひとこと言おう、少なくとも10年早い。古典酒場には、先達への敬意を欠いた輩は訪れるべきではない、それは暗黙の了解である。

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最終更新:11/18(月) 17:06
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