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【書評】多民族の豊かさを知る:山本博之編著「マレーシア映画の母 ヤスミン・アフマドの世界」

11/18(月) 15:01配信

nippon.com

野嶋 剛

その才能が本当の意味で世界に知られる前に、病によって姿を消してしまったマレーシアの女性映画監督・ヤスミン・アフマド。没後10年に合わせて、その作品の魅力と思想を紹介する本が出版された。マレーシアの難しさと面白さの両方が詰まった彼女の映画づくりを徹底解剖する一冊だ。

一冊まるごとヤスミン・アフマドの世界

優しさと切なさに満ちている映画であった。決してハッピーエンドではないのだけれど、見終わったあと、自分のなかに何か暖かいものが残されるような気持ちになれる。マレーシアの映画監督、ヤスミン・アフマドの『細い目』を、東京・吉祥寺で観たときに思ったことだ。

ヤスミン・アフマドのことを知ったのは、少し前に彼女の最後の長編『タレンタイム~優しい歌』を見たときで、本著『マレーシア映画の母、ヤスミン・アフマドの世界』を手に取り、今回、劇場上映第1作の『細い目』日本上映を機に映画館に足を運んだ。『細い目』はマレー系の少女と中華系の少年が出会い、恋に落ちていく過程を描いた作品で、マレーシア・アカデミー賞の最優秀作品を獲得している。

この本、とにかく分厚い。480ページ。一人の監督の映画に、これだけの精力を注いで本にする、ということ自体が驚きであり、関わった人々の熱量が感じられる。ヤスミン・アフマドの長編全6作と短編1作について、複数の書き手がさまざまな角度から解説を加えているほか、映画の粗筋やキャストの詳細な紹介を載せ、彼女の世界をまるごと理解できる作り方になっている。

ヤスミン・アフマドは1958年にマレーシア・ジョホールで生まれ、米国留学を経て帰国後、広告会社などでCM制作に関わり、2005年から映画の世界に入った。10年余りの活動期間に『細い目』『グブラ』『タレン・タイム』など話題作を続々と発表し、多くの映画賞を獲得した。アジアを代表する映画監督としての名声を勝ち取りながら、2009年、51歳で脳出血のため急逝した。

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最終更新:11/18(月) 15:01
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