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【書評】多民族の豊かさを知る:山本博之編著「マレーシア映画の母 ヤスミン・アフマドの世界」

2019/11/18(月) 15:01配信

nippon.com

作品をマレーシア理解の入り口に

私は、シンガポールや台湾など多元的な文化を有する社会に暮らした経験がある。マレーシアにもシンガポールから定期的に通った。多元的社会の暮らしぶりを文章で伝えるのはやはり簡単ではない。いちばん良いのは現地に一年でも半年でも暮らしてみることだ。そうすれば、1つ1つの会話や目にする景色がその社会のルールを教えてくれる。ただ、生涯をかけて研究者にでもなろうとしない限り、海外の特定の国に長期にわたって暮らすのは難しい。

その異文化体験の入り口には、その国の映画を見ることがいちばんである。編著者の山本博之・京都大学准教授が本書あとがきで述べているように、「異文化の読み解き力を高めるには(略)、映画の読み解きが効果的だと思う。映画をみて面白いと思ったり、つまらないと思ったりしたら、なぜそう感じるのかを考えるとともに、気になったセリフや場面や音楽について調べて、製作者がなぜそのような表現をしたのか考えを巡らせてみる」ということだ。

マレーシアに関する多くの研究書や専門書が出ているが、どうも初級者としては敷居が高い。そんな風に感じている人は、ぜひこの本を手にとって欲しい。マレーシアという日本の友人に近づくためにも、マレーシアのことをもっと詳しく知るべきで、ヤスミン・アフマドの作品は最良のイントロになる。それが本書を完成させた人々の願いであろう。

彼女はもういない。だが、「珠玉の作品」と呼ぶのにふさわしい作品は残された。本書の中には、生前、彼女が漏らした言葉が紹介されている。「私の名前は忘れてもいい、でも私が作った作品のことは忘れないでほしい」。作品は忘れられず、彼女の死後さらに評価を高めている。そして、ヤスミン・アフマドという名前も忘れられることはないはずである。

【Profile】

山本 博之 YAMAMOTO Hiroyuki
京都大学東南アジア地域研究会准教授。混成アジア映画研究会代表。ナショナリズムと混血者・越境者、災害対応と社会、混成アジア映画などを専門にする。

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最終更新:2019/11/18(月) 15:01
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