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「日本一忙しい空飛ぶドクター」が目指す、地域医療の未来とは

11/18(月) 6:01配信

ダイヤモンド・オンライン

 名医やトップドクターと呼ばれる医師、ゴッドハンド(神の手)を持つといわれる医師、患者から厚い信頼を寄せられる医師、その道を究めようとする医師を、医療ジャーナリストの木原洋美が取材し、仕事ぶりや仕事哲学などを伝える。今回は第20回。「日本一忙しい空飛ぶドクター」として、全国的に知られる凄腕救急医、公立豊岡病院但馬救命救急センター センター長・小林誠人医師を紹介する。(医療ジャーナリスト 木原洋美)

● 患者を診るだけなら診療 僕は医療をやっています

 自分もしくは大切な人が、重大なケガや病気に見舞われたとき、この人ほど頼もしい存在はいないだろう。――公立豊岡病院但馬救命救急センター センター長・小林誠人先生。「日本一忙しい空飛ぶドクター」として、全国的に知られる凄腕救急医だ。

 その名医ぶりは、某公共放送をはじめとする複数のテレビ番組で、年に数回は報じられる。息つく暇もないほどの激務を鬼神のごとくこなし、患者を死の淵から生還させる。心肺停止となった胸を開き、生身の肉体に手を差し入れ、心臓マッサージを施す真摯な姿は、見る者の心を強くゆさぶる。

 しかし、こうした分かりやすい名医像は、先生のほんの一面だ。

 「患者を診るだけなら診療です。僕は“医療”をやっています。医療とは医学を含めたシステムそのもの。医療全体を、大きな観点・視野で見られるのが救急医の役割です」

 そう穏やかに語る小林先生は、医療現場の働き方改革が叫ばれる前から、過酷な救命救急現場の環境改善に取り組んできた(医師がプライベートや健康を犠牲にしなければ成り立たない状況を「美談」にしたいとは思っていない)。救急医を志した頃、日本はまだ救急医学が普及しておらず、学べる場は限られていた。現代史に残るすさまじい事件・事故の現場で経験を積み、豊岡病院に赴任。但馬救命救急センターの立ち上げは、さまざまな問題を抱えた地域医療の構造改革であり、昔ながらの医療体制との戦いでもあった。

● 救急応需率はずっと100% 「日本一安心な地域」が住民の自慢

 元日本医師会長の武見太郎氏は「医療とは、医学の社会的適用である」と定義し、医療にとっての社会性、他の分野との関係を持つことの大切さを説いている。小林先生が構築してきた但馬の救急医療も、統計学的な思考や社会性なしには、絶対に形にならなかっただろう。

 ここでクイズを一問。

 「119番通報から病院搬入まで、日本で一番時間がかかる都道府県はどこか?」。答えは東京都の平均50分。傷病者の受け入れ先が見つからない「たらい回し」が常態化しているのだろうか、全国平均39.3分を大きく引き離してのワーストワンだ(平成29年/総務省消防庁発表)。この数字は過去10年間、ほとんど変わっていない。東京都は対策を講じ、2014年に「受け入れNG」を3分の1に減らしたと発表しているが…。

 重症外傷患者は治療開始が1分遅れれば、救命率は10%下がるといわれている。東京都で倒れることは、日本のどこで倒れるよりもリスクが大きいのである。

 一方、但馬は違う。

 同センターのドクターヘリは鳥取県から京都府北部までの半径80キロ、対象人口約80万人をカバーし、365日、あらゆる重症患者を受け入れている。救急応需率は小林先生が赴任した2010年以来ずっと、驚異の100%。ヘリが飛ぶのは午前8時から日没まで、多い日には17件もの出動があるという。加えてドクターカーも、昼夜・天候を問わない「走る救命室」として稼働し、一般的な救急車とともに、カバーする医療圏全域で患者を乗せるや、同センターを目指し、直行する。断られないことが分かっているから、迷いがない。

 「但馬なら、ドクターヘリは救急覚知から治療開始まで平均20分、現場滞在時間は10分以内。救急車を飛ばして1時間かかる場所からの搬送も含め、病院搬入までの平均は39分です」

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最終更新:11/18(月) 6:01
ダイヤモンド・オンライン

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