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売れなきゃ消える。緊張の作家デビューから、自分を見失いかけた芥川重賞直後まで……作家・吉田修一がはじめて語った本音

2019/11/18(月) 8:00配信

Book Bang

――Googleマップは『東京湾景』の頃にはなかったのに、吉田さんの小説は俯瞰や高低差があるというか、三次元的に土地を捉えている感じを受けます。

吉田 「パーク・ライフ」で、風船にカメラをつけて公園を写すところがあるんです。まだドローンがない時に書いたのが自慢(笑)。僕の地図というか、街の見方は高度も入っている気はします。

――今度の書下ろし短篇「東京湾景・立夏」の舞台はコリドー街です。これも場所からの発想でしたか? 

吉田 『東京湾景』のまともな続篇というか、美緒と亮介の後日譚は多分書けないなと最初からわかっていて、ではどうしようかと。十何年か経って、何か変わったことあるのかなって考えながら、やっぱり地図を見ていたんですよ。せいぜいお台場に映画を観に行くくらいで、あのへんにあまり行かなくなってたし……で、ふとコリドー街があったぞと(笑)。

――直線距離だと意外と近いし、ゆりかもめだとすぐだし。

吉田 うん、元の舞台に近いし、今の恋愛小説だったらここでしょう、みたいな。

同席の編集者 私、本当に何の衒いもなく言うんですけど、歩くと絶対ひっかけられるんですよ。あそこはもう大阪のナンパ橋みたいになっちゃってます。ひょっとしたら、今の若い人にはあれが銀座のイメージなのかもしれませんね。

吉田 僕、ああいうナンパ自体は嫌いじゃないんですよ。とても健全な気がする。

――で、「立夏」の場所を決めて、ここは読者のために伏せますが、ああいう物語の仕掛けを思いつかれた。

吉田 あれは思いついた瞬間、「あ、書き終えた」って感じがしました(笑)。

――吉田さんの新人賞の頃からの支持者に辻原登さんがいます。辻原さんは「吉田さんは今どき珍しく人情話が書ける作家だ」という言い方をされていましたね。人情話をきちんと書けるからエンタメも書けるのだと思いますが、いわゆる純文学的なところと人情話のところ、それともう一つ、吉田さんは必ず仕掛けを考えますよね? 「立夏」でいうと、健全な現在のナンパ話と、あの仕掛けを両方成立させているのがすごく刺激的なんです。

吉田 それは……ちょっと偉そうなこと言わせてもらうと、構成というか仕掛けというか、そこは作家がやらなきゃいけないことだと思うんです。それが込みで小説は小説というものになると僕は考えています。

 そこをまったく無視して、いわゆる物語として語っていくのはもちろんありですが、それはやっぱり物語なわけですよね。小説は、構造をちゃんと組み立てていかないと小説とは呼ばれないんじゃないかなとぼんやり思っているんです。デビュー作以来、そのへんはいろんなことをやってきたと思うし、これからもやっていきたいんですよね。

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最終更新:2019/11/20(水) 15:10
Book Bang

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