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編集者の夢の話から生まれた小説とは? 作家・吉田修一が創作秘話を語る

11/18(月) 8:01配信

Book Bang

「ちょっと偉そうなことを言わせてもらうと――。」
『悪人』『パレード』『パークライフ』『東京湾景』『長崎乱楽坂』……など、純文学やエンタメの垣根を越えて書き続けてきた作家・吉田修一が、デビュー20年を節目に語る本心と創作の秘密とは? 〈自作を語る 後篇〉

【前篇】はこちら
https://www.bookbang.jp/review/article/583243

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『さよなら渓谷』(2008年)

緑豊かな桂川渓谷で起こった幼児殺害事件。実母の立花里美が容疑者に浮かぶや、全国の好奇の視線は人気ない市営住宅に注がれた。そんな中、現場取材を続ける週刊誌記者の渡辺は、里美の隣家に妻と暮らす尾崎俊介が、ある重大事件に関与した事実をつかむ。呪わしい過去が結んだ男女の罪と償いを通して、極限の愛を問う渾身の長編。

――この長篇小説もやはり土地がまずあって……。

吉田 奥多摩ですね。

――同時に、吉田さんの作品歴でこのあたりからいわゆる犯罪小説のカラーが濃厚になってきます。

吉田 これは『悪人』の直後の作品ですよね。『悪人』も『さよなら渓谷』も発想の源には実際の事件があります。『さよなら渓谷』は「週刊新潮」の連載でしたが、記者の佐々木さんが見せてくれた、ある事件の犯人(女性)が逮捕前、メディアスクラムに遭っている写真が強く印象に残ったんです。取材陣はコワモテでガタイのいい男性ばかりで、彼らが彼女をぐるりと囲んでいるのを、ちょっと引いた位置から写した一枚でした。この女性がよっぽど腹が据わっていたとしても、やっぱりこの状況は怖いだろうなと思った。女性が感じるであろう、そんな肉体的な恐怖を書きたかった、というのがまずあった気がします。

――前号で〈人間の生っぽい感じ〉という話がありました。『さよなら渓谷』は酷い犯罪をおかした男と、その被害者だった女の物語です。これも恋愛小説といえば恋愛小説ですが、この時期から、より犯罪のウエイトが重くなっていくのは、生の人間を出しやすいから、なのでしょうか? 

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最終更新:11/19(火) 18:59
Book Bang

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