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地方自治体の健康管理――【自著を語る】『地方財政健全化法とガバナンスの経済学――制度本格施行後10年での実証的評価』

11/18(月) 10:00配信

Book Bang

老いる自治体の健康状態(財政状況)と定期健診の必要性

 本年2019年で、地方財政健全化法(地方公共団体の財政の健全化に関する法律)が本格施行されてから丸10年となる。地方財政の健全化と言われても、実際、住民にはそれが目に見えるわけではなく、ふわっとしたもののように思えるのが普通であろう。何も気を遣わずに、節制に努めることもなく過ごしていると、私たちの身体がじわじわと不健康になっていくように、地方自治体の財政も、持続可能かどうかに注意を払わずに、予算の編成や執行をしていると、じわじわと健全性が損なわれていく。そのようにならないようにするためには、私たちであれば健康に気を遣い、自治体であれば財政の健全性に注意を払い、節制と規律を伴う毎日を過ごさなければならない。

 自分自身でそれが出来れば問題ないのであるが、実際には、そのような気遣いや節制は半ば強制されないと出来ないものである。私たちには、一定の年齢になれば、特定健診や人間ドックを定期的に受診することが推奨されているように、すでに高度成長期から半世紀近く経た今日の自治体においても、財政状況を毎年チェックする仕組みが必要となる。

 自治体の健康状態とも言える財政状況に注目すると、二つの「老い」の現象が見られる。ひとつは、人間同様、毎年、少子高齢化という形での「老い」の進行である。総人口に占める高齢者の割合が高まり、それに伴って、社会保障費が増大していく。また、少子化によって、労働人口が今後はますます減っていく。社会保障費増大は、公共支出の拡大を通じて、財政のバランスを歳出面から不健全にする。また、労働人口減少は、税収の減少を通じて、財政のバランスを歳入面から不健全にする。これらはいずれも、じわじわと影響が出てくるものであり、どうしても対策が後手に回る。

 もうひとつは、高度成長期に集中的に作られたインフラ施設の老朽化という「老い」の現象である。インフラ施設は、地面に設置する道路や上下水道から、学校病院や市民ホールなど地上に構築する公共施設に至るまで、幅広い。これらは、所得が急速に拡大した高度成長期に、短期間で作られたものが多い。そのため、今、多くの施設の更新時期が一気にやってきている。老いた自治体の健康を維持するためには、施設の大規模修繕や更新投資への対応が必要となる。当初、施設が構築されたときには、建築資金は円滑に確保出来たものの、現在は、ひとつめの「老い」からも資金的な制約が強まっており、今後、施設の修繕・更新に必要な資金を確保することは容易ではない。さらに、維持運営にもお金がかかるため、その意味でも、施設をすべて更新することは不可能に近い。求められるのは真に必要なインフラ施設を厳選することであり、コンパクトで機能的な街づくりもを目指す必要がある。

 このように、自治体の財政運営は、将来を見据えた形で長期的な戦略に基づいて行わなければならない。将来にわたって安定的で持続可能な地方財政の運営を確保するという意味では、自治体の財政は常に健全でなければならない。そのためには、まず、自分自身の健康状態、すなわち、財政状況の正確な把握が不可欠である。

 しかし、財政が本当に持続可能な状態にあるかどうか、健全性に全く問題がないかどうかは、客観的な診断を受けなければ、自分自身ではなかなかチェックできないものである。実際、自治体の財政を運営するのも人間であり、必ずしも住民の選好についてのすべての情報に基づいた適正な選択がなされるわけではない。それゆえ、住民がその自治体の財政運営の状況を的確に把握し、適正化を促す自己診断と自己規律の仕組みがなければならない。

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最終更新:11/18(月) 10:00
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