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JR西日本が終電の前倒しを検討、作業員不足で苦肉の策

11/18(月) 7:00配信

日経ビジネス

 「環境変化を踏まえ、24時以降を中心に最終電車の時刻を繰り上げる深夜帯ダイヤの見直しの検討に着手する」

【関連画像】背景には終電後の深夜に行っている線路などのメンテナンス業務に携わる作業員の不足がある。写真はイメージ

 JR西日本の来島達夫社長は11月8日に都内で開かれた記者会見でこう語った。同社は10月、近畿圏の在来線の深夜帯ダイヤを見直す方針を明らかにしており、来島社長があらためて終電の前倒しに言及した形だ。背景には終電後の深夜に行っている線路などのメンテナンス業務に携わる作業員の不足がある。

 JR西によると、近畿圏の在来線では1日100カ所以上で約1500人の作業員がメンテナンス業務を行っている。作業時間帯は主に終電後の深夜。ただ、JR西の線路保守を行うある建設会社では2008年に1379人だった作業員が18年には23%減の1063人となるなど労働力不足が進んでいる。総務省の労働力調査によると、建設業就業者(技術労働者)の減少率は9%で、これと比べても作業員の減少幅は大きい。JR西は「週1回程度の休みしか取れないなど、働きにくさが影響している」とみている。

 JR西も作業員の減少を座して待っていたわけではない。線路の枕木を木から順次コンクリートに変えて強靭(じん)化したほか、複数の架線を一体化させたり、メンテナンス用の機材を開発したりするなど省力化や省人化を図ってきた。だが、急速に進む人手不足は「今後も改善する見通しはなく、深刻化する」(来島社長)。

 作業員の働きやすさを向上させるために、JR西が検討に乗り出したのが深夜時間帯のダイヤの見直しだった。現在、ターミナル駅の大阪駅を出発する平日の在来線の最終電車は京都線が午前0時31分(高槻行き)、神戸線が同0時28分(西明石行き)、大阪環状線(外回り)が同0時33分(京橋行き)だが、これらを午前0時まで繰り上げた場合、一晩の作業量が増加するため、年間の作業日数が10%ほど少なくなるのだという。

 加えて、JR西が深夜帯のダイヤにメスを入れるのには別の理由もある。深夜の鉄道利用が年々減少しているのだ。JR西の説明では、平日午後9~11時台の大阪駅の利用者は13年と比べ7%減少、午前0時台は17%減少した。対して午後5~8時台の利用は7%増えている。JR西は働き方改革による就業時間の見直しなどにより鉄道利用者の帰宅時間が早まっていると分析している。

 JR西が深夜帯のダイヤ見直しに乗り出す一方で、関西の他の鉄道会社の動きはまだない。阪急電鉄の担当者は「1日の中での深夜時間帯の利用の割合はわずかに減少傾向にある」としながらも「ダイヤを見直す段階ではない」と説明。メンテナンス作業員の不足も現時点では発生していないという。

 京阪電気鉄道や近畿日本鉄道も深夜ダイヤの見直しは現時点では検討していないという。ある私鉄関係者は「JR西の路線は非常に長く、メンテナンス作業員の数もそれだけ必要。そうした背景もあって、人員の確保が難しくなっており、苦肉の策としてダイヤ見直しの検討に踏み切ったのではないか」と分析する。

 首都圏はどうか。東京メトロはJR西と同様に深夜の利用客が減少する傾向にあるものの、ダイヤの見直しについては「検討していない」という。JR東日本はメンテナンス作業員の確保が難しくなっている現状や、高度成長期に整備した多くの構造物が老朽化してメンテナンスの量が増えていることを挙げて「JR西と同じ問題意識は持っている」との見解を示す。「終電の見直しも選択肢の1つ」とJR西の方針に理解を示しながらも、現時点では新技術の導入による省人化などで対応していく考えだ。

 鉄道は都市の生活を支える重要なインフラだ。終電時間の繰り上げは労働者を含めた利用者の動向に直結し、企業の生産活動にも影響を与えかねない。JR西には「選択の幅が狭まる」と利用者から反対の声も届いているといい、深夜営業の店舗などの動向や他社とのダイヤの調整を踏まえた上で、実施の検討を進めていくとしている。

 ただ、今後も労働力人口が減少していく中で、鉄道の安全を担うメンテナンス作業員の確保はさらに困難になっていく可能性が高い。JR西のように、収益を上げている路線であっても、運行時間の見直しを検討する事業者は今後も出てきそうだ。

藤中 潤

最終更新:11/18(月) 7:00
日経ビジネス

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