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パリ・コレに見る、「一流ブランド」の真価 vol.3

11/20(水) 8:03配信

Meiji.net

パリ・コレに見る、「一流ブランド」の真価 vol.3

東野 香代子(明治大学 商学部 特任講師)

9月24日から10月2日まで、来年の春夏の新作を発表するパリ・コレクションが開催されました。日本でも高い注目を集める催しですが、発表される新作ファッションだけでなく、会場の観客席や、その背景で起こっていることにも注目してみると、社会の動向や私たちの生き方に繋がるものが見えてくるといいます。

◇ファッションの魅力は、周りを照らすブランドという太陽があること

昨年の秋、大手通販会社がファッションデザインを作るAIの構想を発表しました。これが本当に実現するのかは不明ですが、実は、ファッションの小売りの分野ではすでにAIは積極的に取り入れられています。

その一つの例として、CRM(顧客管理)により、顧客ごとに最適なアイテムをレコメンドするシステムです。

先に述べたセミナーのために、いまは人がやっている、1万点のルックを分類、整理するという非常に大変な作業も、AIならあっという間でしょうし、さらに、それを基に、そのテイストを薄めて商品を作るという仕事は、薄める度合いが重要で、現在は商品企画をする人の勘と経験に頼っています。

AIであれば、顧客データはもちろん、景気の動向や過去の流行の動きなど、必要なデータをいくらでも詰め込み、薄める度合いをはじき出し、万人向けにでも、ファッション好きの消費者に向けてでも、売れるファッションを作ることは可能だと思います。

しかし、このストーリーはどこかおかしいと思わないでしょうか。できあがったデザインの模倣を人がやるにせよ、AIがやるにせよ、その出発点には、ブランドのコンセプトに自分の世界観を投影し、必死の思いでオリジナルの作品を生み出しているクリエーターがいるのです。

過去から現代へと脈々と続く彼らの存在がなければ、そもそもファッションは成り立っていないのです。

最近、一般人も月旅行ができることが話題になっています。確かに、夜空にひときわ大きく、美しく輝く月は、人の心を魅了します。でも、近づいて見れば、石ころだらけの殺風景でつまらない天体です。

月が美しく見えるのは、太陽が照らしているからです。私は、この太陽が一流ブランドであり、その輝きはファッション業界や周辺の産業をくまなく照らし、消費者に対して美しく見せていると思っています。

「ファッション」という言葉には、人を幸せな気持ちにしたり、夢を与えたりする力があります。それは、人がなにかを創造することの素晴らしさを、人は知っているからだと思います。

その意味では、売れ筋で着やすい感のある「月に行く」のではなく、すごく危険だけれど「太陽に行く」気概を、多くの若いクリエーターたちにもってもらいたいと思っています。

デジタル化社会へ加速する昨今、ラグジュアリーブランドは伝統を守りながら生き残れるのかという問題について、デジタルは人の感性を鈍くするといわれますが、そうとも限りません。例えば、人を感動させる写真をインスタグラムにあげている人は、その空間を五感で感じていて、その思いが画像になるから、見る側も感動するのではないでしょうか。

もちろん、写真には音も匂いも触感もありませんが、見る側にも五感の体験があれば、インスタからその記憶が引き出され、それが感動に繋がるのだと思います。

ファッションも同じで、デザイナーの五感を、自分の記憶から引き出せるような体験がある顧客は、そのブランドの放つオンリーワンの世界観を感じることができると思います。

その意味では、社会環境がどう変わり、それにどう対応しようと、振り回されようと、普遍の原点をもっているのがブランドであり、ラグジュアリーブランドが廃れるのか、これからも太陽のように燦然と輝いていけるのかは、その原点を感じる五感が、私たちから廃れるのか否かなのかもしれません。

でも、最近増えてきているように感じる、大量生産のファストファッションを嫌い、ヴィンテージを好み、服をカスタマイズする若い人たちを見ていると、それは杞憂なのかもしれないと思います。

※取材日:2018年9月

東野 香代子(明治大学 商学部 特任講師)

最終更新:11/20(水) 8:03
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