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日本シリーズ、甲斐拓也を見直した/廣岡達朗コラム

2019/11/22(金) 11:01配信

週刊ベースボールONLINE

MVPの値打ちがあった甲斐

 ソフトバンクが3年連続で日本一を達成した。厳密にいうと、この2年はリーグ優勝を逃しているが、日本一と呼ぶにふさわしい強さを発揮した。いかに辛口と言われる私でも、文句をつけようがない。

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 工藤公康監督は、投手陣を自ら手取り足取り教えているという。嫌われることも辞さない。私に言わせれば、やっと監督らしい覚悟が固まったということだ。だからワンちゃん(王貞治会長)には「工藤を応援してやれよ」と言ってやった。なぜなら監督が“いい人”だと思われたら、ろくなことはない。

 私もヤクルト、西武の監督時代に最初の半年はナインを敵に回した。しかし、不思議なもので、勝っていくにしたがって彼らは言うことを聞くようになる。

 いまの指導者は、理論だけを教えれば勝てると思っているようだが、それは大間違いだ。練習で身につけて初めて理論は血となり肉となる。頭の中だけで完結し、それで勝てるのなら、東大が東京六大学でもっと勝っているはずだ。

 日本シリーズで坂本勇人と丸佳浩を崩したのは甲斐拓也のリードにほかならない。彼らがインコースに強いといっても、反対に内角は死球のリスクを伴う。そこで甲斐は内角をビュンビュン突き、腰が引けたところでアウトコースを要求。その配球どおりに150キロ級がそろう投手が投げ切った。バッテリーの勝利であるのはもちろん、私は甲斐を見直した。

 だから甲斐こそ今年の日本シリーズの最高殊勲選手だと私は考えている。確かにグラシアルはよく打った。それはそれでいいのだが、やはり苦労してリードしていたのは甲斐。今季も試合途中で高谷裕亮に代えられるなど、まだ首脳陣から全幅の信頼を得られていないようだが、坂本、丸を牛耳ったリードは2年連続MVPを与えるだけの値打ちがあった。

巨人が日本シリーズで勝たなくてよかった

 原辰徳監督は日本シリーズに負けた後、セ・リーグにもDH制導入をと訴えているが、何を言っているのか。負けた言い訳をDH制に求めるな。日本シリーズでもセのホームゲームの場合、パの投手は打撃を知らないのだから、セのほうが断然有利のはずなのだ。われわれがお世話になった時代の巨人は別所毅彦さん、藤田元司、堀内恒夫などが意外性のあるバッティングをしていた。巨人の歴代監督は、投手陣も打たなければいけないと説いたものだった。

 今年は巨人が日本シリーズに勝たなくて、つくづくよかったと私は思っている。仮に巨人が勝った場合、あの金にあかせて選手を獲得するやり方をマネするアマチュアが出てくる。怖いことだ。広島もそうだったが、ソフトバンクは主力が抜けても教育によって代わりの選手を作れるだけの自信がチームにある。だから、いつでも出ていって結構、と胸を張って言える。そういうことを言えない球団がお金で選手を縛るのだ。

 逆指名制度が姿を消して久しい。いまのドラフトは平等に近い。つまり、選手を教えることでチームは強くなる。その真理に巨人はいまだに気づいていない。あれも欲しい、これも欲しいで巨人は何十億使ったのか。結局、今季の移籍組で使えたのは丸佳浩だけだった。巨人に必要なのは、目先の損得ではなく、野球ファンの共感を呼ぶことである。

『週刊ベースボール』2019年12月2号(11月20日発売)より

●廣岡達朗(ひろおか・たつろう)
1932年2月9日生まれ。広島県出身。呉三津田高、早大を経て54年に巨人入団。大型遊撃手として新人王に輝くなど活躍。66年に引退。広島、ヤクルトのコーチを経て76年シーズン途中にヤクルト監督に就任。78年、球団初のリーグ制覇、日本一に導く。82年の西武監督就任1年目から2年連続日本一。4年間で3度優勝という偉業を残し85年限りで退団。92年野球殿堂入り。

写真=BBM

週刊ベースボール

最終更新:2019/12/14(土) 18:18
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