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アメリカの抽象表現主義の画家、マーク・ロスコを紹介──ジーン・クレール「僕らの世界の見方」

11/23(土) 9:14配信

GQ JAPAN

ジーン・クレールの「The Way We See The World」では、伝統文化からポップカルチャー、カウンターカルチャーまでにまつわる、この世界を彩り、形づくったモノ・コト・ヒトを紹介し、僕らの世界の見方を紐解く。6回目となる今回は、アメリカの抽象表現主義の画家、マーク・ロスコを紹介し、彼が影響を受けたものを紹介する。

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マーク・ロスコの作品をひと目見たときから、その純粋さ、精神性、そしてその神秘的な力に心を奪われている。彼がいかにして人間の魂の内側をのぞきこみ、それを絵画そのものが描く表現を超えて、ムードあるいは抽象的感覚へ変える能力をもてるようになったかを、私は長いあいだ理解しようと考え続けている。ロスコが描くのは基本的に見えないもの、触れることができないもの、そして空想だ。それらをフォルムや、ムード、質感、色で表現するのが彼の特徴だ。その絵画を観る者は自身の存在を問わざるをえない領域へと入っていく。

ロスコが魅了されていたのは、創造という行為によって導かれる幾多の可能性であり、その創造を可能にする想像力だった。ロスコの作品のテーマは彼に影響を与えたもの、たとえば自身が信仰したユダヤ教や、ドイツの哲学者ニーチェ、ギリシャ神話の世界などといわれている。素晴らしいのは、これらの題材が直接的なイメージではなく、むしろ私たちがまだ自覚すらしたことのないムードや感覚に置き換えられて表現されたところだ。つまり、目を閉じていても彼の絵画を観ることができるのだ。

どのようにしてロスコがこの境地に至ったのか、きちんとした答えを私が見つけることはないだろう。彼は多くの実験や勉強に時間を費やしてその境地へ到達している。実際、初期のころには具象的な表現の作品も制作していて、その影響はいまも議論されている。しかし、彼は間もなくその手法を捨て去り、抽象的かつより大きなものを求める旅に出た。われわれの世界の見方、解釈の仕方をいかに美しい方法で抽出し、表現に昇華できるのか探し求めたのだ。ロスコが注目したのは、無意識から来るイメージや神話世界が示すメッセージだった。これらを創作に用いることで、現代人が失った人類の精神性や霊性を見つけ出し、それによって現代人が自らの苦悩にうまく立ち向かえるのではないかと考えた。

ロスコは私のキャリアにおいて、いつも前へと導いてくれた。人生における「自分とは何者であるか」という問いの答えとは、始まりも終わりもなければ、悟りも絶対的存在もない無限の海であり、自分について学びうるすべてをいかに深く掘り下げるかの探究でしかない。

1970年、ロスコが自らの手によって命を絶ったことは、彼が世界に伝えたかった理想を真っ向から否定するものかもしれない。しかしロスコがわれわれに示した真の美点とは、私たち一人ひとりのなかにもっている真の美しさへの気付きだった。すなわち、人間であるとはどういうことかを理解する力だ。幅広い物事から影響を受け、自身の意見と創作スタイルをつくった唯一無二の画家が、マーク・ロスコだといえる。

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最終更新:11/23(土) 9:14
GQ JAPAN

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