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元ヤクザ、晴れて銀行口座開設! 暴力団を離脱してうどん店に命を懸けた男──廣末 登(犯罪社会学者・ノンフィクション作家)

11/23(土) 7:35配信

デイリー新潮

 去る11月19日、福岡県北九州市に住むある男性に、銀行口座が開かれた。それ自体は至って普通のことだが、異例中の異例は、彼がかつて暴力団員だったという経歴だ。

【写真】中本さんが試行錯誤を繰り返しできた「うどん」

 男性は日本で唯一、特定危険指定暴力団とされる北九州・工藤會幹部だった中本さん(53)。ある事件での逮捕・収監を最後に、暴力団を獄中離脱したのは平成27年だった。翌年の出所後、カタギとして訪れたハローワークで地元・小倉で働きたいと希望した中本さんは、組関係者との軋轢や世間から向けられる偏見の心配を理由に県外就労を勧められる。生まれ育った土地を愛する彼はハローワークに頼るのをやめ、知人に紹介してもらった単発の仕事などで資金を作り、独立自営の道を目指した。

「30年間、反社会的勢力として活動した自分の再出発は、ゼロから、ではなく、マイナスからのスタート」――胸に刻んだ思いを託した商売は、土地のソウルフードとして親しまれた「どきどきうどん(肉うどん)」を供する店。出汁から丁寧に手作りして、お客さんが「おいしい」と言ってくれる一杯を地道に作っていこうと決心した。知り合いのうどん店店主に頼んで一から修業をし、平成29年6月7日には開店にこぎ着ける。中本さんの生い立ちから暴力団加入、そして離脱、独立までの経緯は拙著『ヤクザの幹部をやめて、うどん店はじめました。――極道歴30年中本サンのカタギ修行奮闘記』を参照されたい。

 NHKドキュメンタリー「ノーナレ」で開店当初の様子が紹介されたこともあり、地元だけでなく、全国から足を運んでくれる人も増えて店は順調。ローカル局番組のグルメコーナーから取材を受けたこともある。今年、令和元年6月に店は2周年を迎えた。思い切って店内の改装も行い、名前も店がある小倉市京町商店街にあやかって「元祖 京家」と改名した。

「現状に甘えることなく、常に前を見て一歩ずつ」――さらなる心機一転の覚悟を励ますように、予期せぬうれしい知らせが中本さんの元に届く。「元暴」が解除される可能性がある、と福岡県暴力追放運動推進センターから伝えられたのだ。

「元暴」=元暴5年条項とは、自治体の制定した暴排条例に基づき、暴力団を離脱してもおおむね5年は暴力団関係者と見なすというもの。これにより銀行口座が開けない(口座の不正使用などの懸念による)から、賃貸など各種契約が結べない、保険に入れないなどの社会的制約を受ける。中本さんも店の物件は大家さんの厚意で不動産仲介のない直接賃貸、売り上げや仕入れ代金など現金は常に手持ち金庫で持ち運び、揚げ物も扱う飲食店なのに火災保険に入れなかった。

 おおむね5年という期限も、それが過ぎれば自動的に制約がなくなるのではなく、銀行などそれぞれの企業に判断が任されるという曖昧なもの。中本さんは、「元暴」が外れる可能性はほぼないと自覚して、自力でできる範囲で仕事も生活もまかなうつもりだった。

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最終更新:11/24(日) 15:14
デイリー新潮

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