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元ヤクザ、晴れて銀行口座開設! 暴力団を離脱してうどん店に命を懸けた男──廣末 登(犯罪社会学者・ノンフィクション作家)

2019/11/23(土) 7:35配信

デイリー新潮

「しばらくして警察に呼ばれましてね、『口座が開設できるとしたらどこの銀行がいいか』という話になったんです。でもそれまで考えてもいなかったし、自分からどこどこの銀行、なんて望めませんって言ったんです。口座を持たせてくれる銀行さんだったら、どこだってありがたいんですから」

 暴力団離脱者でも、個人の手続きで口座開設を相談することはできる。ただ、銀行が十分、信頼できる何らかの条件が整い、大丈夫だと判断しなければ受け入れられず、実現した例はほとんどない。だから、今回、警察の関与の元、中本さんの口座開設が実現したことは、福岡県内だけでなく、全国でも初めてと言ってもいい快挙。暴対法や暴排条例で反社会的勢力周辺への風当たりが強まる中、離脱して心を入れ替え、真面目に生きていこうと決めた人、いま、この瞬間に離脱を考えている人たちにとっては、頼もしい前例ができたことになる。

「『元暴』が外れたからといって、組織にいた30年が消えるわけではありません。服役で罪は償ってきましたが、世間に迷惑をかけて生きた時間は残ります。これを機に、より一層、死ぬ気でカタギ人生をがんばろうと心に決めました」

 これまで、中本さんを受け入れて見守り、励ましてくれた商店街の人たちや同級生など古くからの友人たちは、今回の朗報も一緒に喜んでくれたとか。

「ここまでやってこれたのは周囲の理解と助け、協力があったおかげです。皆さんの気持ちに報いるためにも、今よりさらにおいしいうどんを作ってみせます」

 晴れやかな笑顔を見せる中本さんの店にはお客として、暴力団を離脱した人や逮捕された犯罪者の周辺にいて事件を阻止できなかったことを悔やみ続ける人などまで、わざわざ他県からも訪れて中本さんの手が休まるのを待って不安や悩みを打ち明けるという。

「私なんかから申し上げられることは、本当は無いんですけどね。ただ、周囲への感謝を忘れずに一日一日を一生懸命生きていれば、いつか光が見える。そのことだけは伝えていこうと思っています」

 今回、口座開設手続きの中で、中本さんの暴力団離脱日が、はじめて明らかになった。それは、書類によると、平成27年3月17日、中本さんが警察署に勾留されている時に、脱退届を出した日だった。

 暴対法改正に基づく暴排条例、そこに含まれる元暴5年条項。しかし、肝心の「5年」がいつからカウントされるのか、中本さんはどこからも説明を受けていなかった。口座開設に伴い、基準は「脱退届を出した日」という目安が公表されたことも、大きな進歩と筆者は考える。

デイリー新潮編集部

2019年11月23日 掲載

新潮社

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最終更新:2019/11/24(日) 15:14
デイリー新潮

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