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人気の人造肉にビーガンからきつい批判

11/25(月) 12:32配信

Wedge

 米国では植物を原料とする肉、フェイクミート、マンメイド・ミートなどと呼ばれる食品の人気が高まっている。代表的な企業にはインポッシブル・フーズ、ビヨンド・ミートなどがある。

 インポッシブル・フーズは昨年大手ハンバーガーチェーン、バーガーキングにインポッシブル・ホッパーとして採用され、他のハンバーガーチェーンにも販路が広がりつつある。グーグル・ベンチャーズがこの企業に投資を行っており、現在米国と香港の1000以上のレストランが同社の人造肉をメニューに取り入れている。

 ビヨンド・ミートはビル・ゲイツ氏も出資しており、今年5月にNASDAQに上場を果たし、IPO価格25ドルに対し初日の株価が46ドルと大成功を収めた。ホールフーズなどの大手スーパーでハンバーガー用の肉のパテを販売するなど、こちらも順調に売り上げを伸ばしている。

 ところがこうした人造肉の普及に水を差す訴訟が起こされた。今年11月、ベーガン(菜食主義の人々、肉や乳製品、卵など一切排除するという菜食主義の中でも最も制限の高い人々)のグループがバーガーキングを相手取り、「同社が提供するインポッシブル・ホッパーは肉製品に汚染されている」と訴えたのだ。

一般肉と同じ鉄板で焼く

 理由は、バーガーキングが一般の肉のバーガーパテとインポッシブル・ミートのパテを同じ鉄板の上で焼いているため、肉の成分がインポッシブル・ホッパーに混入し、「望まない肉汁などが付着したものを食べさせられた」というもの。

 バーガーキングではこうした批判に対し、現在ではオンラインメニューに「肉の成分の付着を望まない顧客に対し、グリル以外の方法での調理のリクエストを受け付ける」という注意書きを加えている。オーブンで焼く、などの方法がとられるものと見られるが、最初からベーガンに対する配慮に欠けている面はあったかもしれない。

 しかし米国ではこうした訴訟が次々に起こされるケースは少なくない。そうなると訴訟への対応、損害賠償、さらには普通の肉とインポッシブル・ミートを分けて調理するための設備などが必要となり、「インポッシブル・ミートを使ったメニューは採算が取れない」という結論につながるかもしれない。

 ビーガンの中には本物の肉の匂いにすら敏感な人々がいるため、かなり厳密に調理を分けないとこうした問題は避けられない。ハンバーガーチェーンのような薄利多売、顧客への提供スピードが命、というビジネスにとって、調理プロセスの煩雑化は命取りになりかねない。

 このような訴訟が起きたことで、今後マクドナルドなど他のチェーンでも同様の問題を避けるために人造肉バーガーの導入を躊躇するところが出てくるかもしれない。人造肉のメーカーにとっては頭の痛い問題とも言える。

 そもそも人造肉は本当に必要なのか。酪農は大量のCO2を排出し、地上のリソースを大量に消費するため、今後の人口の増加に対応するためには現在の酪農では対応できない、という説がある。また動物愛護の観点から家畜を殺して食することを避けよう、という動きもある。それでも肉を食べたい、という人のために考案されたのが「肉の風味を持つ植物由来の食べ物」である。さもなければ別に大豆などの植物性タンパクを摂取するだけで済む話だ。

 環境面から見ても、確かにビヨンド・ミート、インポッシブル・フーズはともに「酪農などと比べて90%以上の水や土地、化石燃料の節約ができる」としている。しかし、工場内で生産される人造肉の場合、工場設備や温度調節その他で総合的に排出される二酸化炭素の量は養鶏農家よりも多い、とも言われている。

 また植物由来ではなく、細胞培養の手法を使う人造肉ではCO2の排出量だけを比較すると酪農とそれほど変わらない、とも言われる。極端な研究者は「環境面だけを考えるなら、人々が野菜中心の食生活にシフトし、週に1回だけ牛肉を食べる、あるいは2回鶏肉や魚を食べる、というスタイルの方が環境負荷は少ない」という説を唱えている。

 また現時点では人造肉は普通の肉と比べて価格が高い。そのため米国では菜食主義の人々の他、人造肉をあえて選ぶ、というのはアッパーミドルクラスで環境問題に敏感な人々、とされている。ごく普通の人々があえて人造肉を選ぶ理由は今の所存在しない。そもそも菜食主義ならばあえて肉の味に近づけた加工食品を摂取する必要性はそれほどない。

 もちろん来たるべき食糧難に備えてこうした技術の進歩は必要だろう。インポッシブル・フーズでは次のプロジェクトとして人造の魚肉開発を行う、という。人口の増加で海洋資源の枯渇も考えられるためだ。

 ただし成分だけを比較すると、人造肉は決して本物の肉と比べてヘルシーというわけでもない。カロリーはやや低いし脂肪分も少ないが、塩分は多いしカーブ(炭水化物)量も多い。レストランで人造肉を注文すると味の差をごまかすためか大量のソースがかかっていることも多く、合計カロリーは本物の肉を上回るかもしれない。

 全く別の例えだが、米国では喫煙の害への批判が高まり、蒸気を吸い込むタイプのタバコ製品が一時流行した。タールなどが発生せず、副流煙被害もない、ともてはやされたが、現在ではこの蒸気タバコで肺に炎症が起きる症例が報告され、トランプ大統領は蒸気タバコ禁止に動いている。同じようなことが今後人造肉に対しても起こり得る可能性はある。クリーンな環境で製造される食品、と言われるが、人工的に作り出された加工食品である以上、完璧なものではないからだ。

 バーガーキングへの訴訟は人造肉がある程度普及してきた証拠とも言えるが、その一方で今後のさらなる普及に対しての問題点を露わにするものでもある。人造肉は肉なのか、それとも肉として扱われるべきではない食品なのか。人口増に対応するための救世主なのか、ニッチな商品なのか。その答えが出るにはまだ時間がかかりそうだ。

土方細秩子 (ジャーナリスト)

最終更新:11/25(月) 12:32
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