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日本の歯科矯正を価格破壊!?米国発「マウスピース矯正」の正体

11/25(月) 6:01配信

ダイヤモンド・オンライン

 『週刊ダイヤモンド』11月30日号の第1特集は「歯医者のホント」です。歯医者の世界は、構造変化の只中にあります。それを象徴するのが、日本で広がりつつある米国発のマウスピース型矯正ビジネス。価格破壊で業界を大きく揺るがす勢いです。日本の歯科業界は問題がまさに山積しています。「賢い患者」をめざす読者のために、知られざるホントを明らかにしていきます。

● “日本の医者飛ばし”  マウスピースビジネスの破壊力と落とし穴

 “黒船”が襲来した──。日本の歯科矯正の世界ではこの数年、このような表現にふさわしいような地殻変動が起こっている。キーワードは「マウスピース矯正」。震源は米国だ。

 その先兵は米アライン・テクノロジーが展開する「インビザライン・システム」。米国で蓄積された患者のビッグデータを用い、透明な樹脂製で取り外し可能な「アライナー」と呼ばれる装具を販売する。

 日本ではワイヤー矯正で、口元から金具がのぞくことを嫌がる患者も多い。片や、マウスピース矯正は装具が目立たない。審美性を求める患者、もうけたい医師のニーズが合致する。そんな構図を見透かす形で、業者側も歯科医に猛烈な売り込みを掛けているのだ。

 同様の商品では他に、米国発のスマイルトゥルー。3Dデータを使って「診断・設計は米国、製作は日本」を掲げる同社サービスには、あの三井物産が歯科技工所と組んで30%を出資。大手商社が参入を果たした。

 さらに米国では、自宅で歯列矯正できるマウスピース矯正のキットを直接患者へ販売する新興企業「スマイルダイレクトクラブ」が今年9月、ナスダック市場へ上場した。診断の段階から歯科医を通さない“完全医者飛ばし”スキームを築き、医師側の猛反発を受けながらも急成長している。

 いずれもワイヤー治療に比べて「安い」「手軽」という点を競ってアピールする。ワイヤー矯正なら60万円は必要だが、マウスピース矯正は20万円程度から可能。ただし、安さだけに釣られるのは危うい。

 中でも「4万円から始められる」と段違いの格安アピールに若者が殺到する「キレイライン」では、この商品を主に扱うクリニックの院長の月収が200万円に及ぶという。

 マウスピース矯正は本来、ワイヤー矯正より歯を動かす力が弱く、対応できる症例は限られているのだが、キレイラインでは「ほとんどの歯並びに対応可能」とうたい、誤解を生むような広告表現でアピールする。

 患者が特に警戒しなければならない点が二つある。

 まず、そもそも装具を数年着けたままにするワイヤー矯正に比べ、自己管理が求められる。

 食事と歯磨き時以外、20時間以上、装着しなければ効果が出にくいとされる。だが、実際にそれだけの時間、装着を徹底できないケースも多い。歯科業界に詳しいある弁護士は「思うように矯正効果が出なくても、十分な時間、装具を着けていなかったのではと押し切られ、泣き寝入りすることになりやすい」と話す。

 二つ目に、自由診療であることもあり、トラブルが起きたとき患者側が守られる仕組みはほとんど整っていない。日本の法律ではマウスピースなどカスタムメードの矯正装具は、国内外で製作されたかどうかにかかわらず、薬事法上の医療機器に当てはまらない。特に海外で作られた場合は歯科技工士法上の矯正装置にも該当せず、単なる“一般物”の扱いとなる。

 ひと足先にマウスピースが普及した米国では、スマイルダイレクトクラブやインビザなどのマウスピース矯正を行った患者から、米食品医薬品局に腫れやアレルギー症状などの報告があり、すでに問題化している。

 それでも業者側がこぞってマウスピース矯正に触手を伸ばす理由は、日本で潜在市場が大きいからに他ならない。

 約10万人いる歯科免許を持つ医師のうち、「矯正歯科」を標榜する歯科医は2万人余り。ここがまず業者側のターゲットとなる。

 残り8万人の歯科医は今のところ矯正治療に距離を置く。だが、業者側とすれば、こここそが“未開の肥沃地帯”。新たな収入源としてマウスピース矯正を勧めにかかる。

 実際、歯科開業医向けのコンサルティング会社では、頭打ち気味のインプラント治療などに代わる自由診療の切り札として、新たにマウスピース矯正を始める歯科医向けのセミナーを開催。「マウスピース矯正付加で選ばれ続ける歯科医院へ」と誘いかける。

ダイヤモンド編集部/小栗正嗣

最終更新:11/25(月) 6:01
ダイヤモンド・オンライン

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