ここから本文です

米国はすでに離脱…パリ協定、各国が掲げる高い目標の現実味

11/30(土) 16:00配信

幻冬舎ゴールドオンライン

加速度的に進む地球温暖化、時期に顕在化するであろう化石燃料の枯渇…。重要となるのは、これらの難問を克服しうる、次世代のエネルギーシステムを目標に掲げ、実現のためのロードマップを描くことです。本記事は、日本総合研究所が執筆した『エナジー・トリプル・トランスフォーメーション』(エネルギーフォーラム)より一部抜粋し、次世代の新しいエネルギーシステムについて考察します。

パリ協定で上がった再生可能エネルギーのハードル

2017年6月のトランプ大統領のパリ協定離脱表明から2年が経過したが、参加国では、具体化に向けた議論が進んでいる。2018年12月にポーランドのカトヴィツェで、パリ協定の運用の具体化を図ることを目的とした第24回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP24)が開催され、温室効果ガスの排出量の計測方法をはじめとする、先進国、新興国・途上国共通のルールが合意された。

2019年5月に京都市で開かれた国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)総会では、具体的な排出量の計算方法が定められ、第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)で正式に導入される。

パリ協定は、先進国、新興国・途上国の隔てなく、すべての参加国に努力義務を課している。京都議定書のようなトップダウンではなく、各国が自主的に目標を立て温室効果ガス削減に向けた活動を進める。目標達成の義務がないことで、むしろ欧州連合(EU)各国の間でいかに高い目標を掲げるかの競争が起こっている。

2018年1月に、ドイツの与党キリスト教民主・社会同盟(CDU)は、2030年の再生可能エネルギーの導入目標値を65%まで引き上げることを決定した。イギリスは、2018年の再生可能エネルギーの割合が33%に達し、2019年3月にエネルギー・クリーン成長担当大臣のクレア・ペリー氏は、2030年までに洋上風力発電の導入量を全発電量の30%以上に引き上げるとの意欲的な目標を示した。

イギリスは、ドイツを上回る洋上風力発電の実績を持っている。水深の浅い海岸線近くから沖合に向かって洋上風力発電のエリアを拡大し、3000万kWまで発電容量を拡大する構えである。デンマーク議会も2018年6月には、2030年に再生可能エネルギー比率を50%とする目標値を合意しており、EU全体でも2030年に再生可能エネルギー比率の目標を27%から32%に引き上げることが決議されている(図表1)。

先進国以外でもインドは、2030年の再生可能エネルギー比率の目標を40%に設定した。中心となる太陽光発電については、現状の2000万kWから1億kWに引き上げ、2022年までに1億7500万kWの再生可能エネルギーを導入する目標を掲げた。

2018年6月、シン電力大臣は、既に水力発電を含む再生可能エネルギーが30%を超えていることを理由に、2030年の目標を40%から55%に上げる方針を示した。グジャラート州知事時代に太陽光発電産業の育成と安定した電力供給を実現したモディ首相は、とりわけ太陽光発電の普及に熱心で、2014年の首相就任後国全体で太陽光発電を拡大している。

インドは、中国同様、石炭火力発電への依存度が高く深刻な微小粒子状物質(PM2.5)の問題を抱えているが、2017年5月に大規模太陽光発電のコストが1kWhあたり2.5ルピー(約4円)を割り込むまで低下したことで太陽光発電への傾斜を強めている。巨大な自国市場を通じて中国製の太陽光発電に対抗する国内メーカーを育成するという狙いもある。

経済格差が依然として大きな社会問題であるインドでは、幅広い層の支持につながる社会的なインフラ整備は、モディ首相の主要課題でもある。200億ドル(約2兆2000億円)を投じて家庭用トイレを普及するクリーンインディア政策により、就任以来8000万家庭にトイレを設置した勢いで上下水道、電力などの整備を進めていく。

2015年には、パリ協定の合意を受け、当時のフランスのオランド首相と途上国の太陽光発電普及を目指すソーラー同盟を結成し、国内では、固定価格買取制度(FIT)、発電施設の税額控除の制度を施行した。

パキスタンは、2030年の再生可能エネルギーの目標比率を60%(水力発電30%を含む)に引き上げる方針だ。2018年8月にカーン政権が誕生し、パキスタン正義運動(PTI)が政権を担うと、政治腐敗や権力争いに嫌気が差した国民の信頼を取り戻し、電力不足に対処するため、自家発電を含む太陽光発電の大幅増加策を打ち出した。

パキスタンは、液化天然ガス(LNG)基地と天然ガス火力発電所の建設を進めているが、4~5%の経済成長が5年間継続したことで慢性的な電力不足に陥り、再生可能エネルギーの拡大に舵を切った。月間1~2日しか雨が降らないパキスタンでは、昼間の安定電源として太陽光発電が期待されている。

2019年1月に、サウジアラビア・エネルギー・産業・鉱物資源省のハーリド・アル・ファーリハ大臣は、2030年までに6000万kWの再生可能エネルギーを導入すると発表した。2018年3月には、ソフトバンクの孫正義社長とムハンマド・ビン・サルマン皇太子が組成したビジョンファンドを通じて2000億ドル(約22兆円)を2億kWの太陽光発電に投資すると発表したのち、非現実的との非難を浴び、現実路線に引き戻された経緯がある。

一方で、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、「サウジアラビア・ビジョン2030」という長期戦略を公表し、脱石油、産業構造の転換を強力に進めている。太陽光発電産業の育成が産業構造の転換で重要な政策として位置づけられているのは間違いない。2018年6月にアラブ首長国連邦(UAE)は、サウジアラビアに対抗して約1.5兆円の経済対策と脱石油の方針を掲げた。再生可能エネルギーの目標比率を2030年に25%、2050年に75%とし、中東の化石燃料依存脱却と再生可能エネルギー導入拡大のリーダーになると宣言している。

1/3ページ

最終更新:12/2(月) 17:15
幻冬舎ゴールドオンライン

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事