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船舶が頻繁に通る航路では、雷が突出して多い。そのメカニズムには科学的な裏付けがあった

12/3(火) 8:11配信

WIRED.jp

ギリシア神話の英雄オデュッセウスが、祖国に帰るための長い航海で数多くの苦難を経て以来、人類はあらゆる進歩を遂げてきた。それにもかかわらず、外洋での生活は依然として楽しいものとは言えない。21世紀になっても、船員たちは何週間も自宅から遠く離れて暮らしている。時間は長く、報酬は月並みで、災難に遭うリスクは決してなくなることはない。

「隕石で死ぬ確率」は落雷より高い

さらに最近の研究でわかったことだが、海上にいる人々はオデュッセウスでさえ対処することのなかった問題に直面している。それは異常に多い雷だ。世界で最も船舶の往来が激しいいくつかの航路帯に沿って落雷が発生する頻度は、同様の気候条件にある付近の地域の2倍であることが明らかになったのだ。

このような話でよく連想されることだが、これはオリュンポスの神々の怒りのせいではない。この場合の責任は、船であれば何の審判も受けずに不純物の多い燃料を燃やすことができると考えた人間の傲慢にある。

雷とPM2.5の放出量の関係

これはワシントン大学と米航空宇宙局(NASA)の研究者たちの数年にわたる研究から明らかになったことだ。最初に発表されたのは「Lightning enhancement over major oceanic shipping lanes(大洋の主要な航路帯における雷の増加)」というタイトルの2017年の論文である。

このテーマが取り上げられたのは、当時大学院生だったカトリーナ・ヴァーツが、落雷について入手できるデータからさらに多くの分析結果を引き出す手法を考案したからだった。ヴァーツは論文の筆頭著者であるワシントン大学の大気科学者ジョエル・ソーントンとともに、この手法と落雷に関する11年分のデータを使って、落雷の頻度が特に高い地域の地図を作製した。そしてふたりはあるパターンに気づいた。「これらが航路帯であることは、すぐにわかりました」と、ソーントンは語る。

この論文で研究者たちは、シンガポールとインドネシアの周辺を含め、北東インド洋と南シナ海に注目した。05年から16年までの間に東インド洋と南シナ海で発生した落雷の数(上のグラフ)と、船舶からのPM2.5の放出量(下のグラフ)を比較すると、人間が航行する場所と雷が落ちる場所には、明らかな相関関係があることがわかる。

そんなばかな、と思う人もいるかもしれない。しかし、雷についての多少の知識があれば、なるほどと思うだろう。

通常の状態であれば、大気中の微小な水粒子は雲凝結核を中心に凝結する。雲凝結核とは、小さなほこりや二酸化硫黄のような、大きさが50nm(ナノメートル)を超えるエアロゾル粒子だ。エアロゾル粒子が少なければ、それぞれが多くの水粒子を集める。そしてまとまって、低い高度で比較的厚みのない雲ができる。この雲が雨を降らせる。

エアロゾル粒子が大量にある場合は、それぞれに付く水粒子の数が少なくなるため、大気の高いところまで上昇して凍結する。その結果、高いところで雲ができ、そのなかにある氷や解けかけた雪の粒子がぶつかり合って電荷が移動する。電荷の違いによって電界が生じ、これが雷を生み出すわけだ。

この現象は、正式には「エアロゾルによる対流の活性化(aerosol convective invigoration)」と呼ばれる。ソーントンは、これを「触媒作用による雷(catalyzing lightning)」とも呼んでいる。

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最終更新:12/3(火) 8:11
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