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「今年5月まで中国共産党のスパイだった」――世界で波紋を呼ぶ27歳の“告白”は、どこまで真実なのか

12/3(火) 11:00配信

文春オンライン

 ある日突然、オーストラリアの情報機関の門を叩き、亡命を求めてきた中国人青年。彼は2019年5月まで丸5年間、中国のスパイとして働き、香港の雨傘革命、銅鑼湾書店事件、台湾統一地方選などに深く関わってきたという。その“告白”の狙いとは――。

【動画】報道番組に素顔で出演した王立強

報道番組に素顔で出演した

 習近平政権の足元が大きく揺らいでいるのだろうか。

 11月に入り、中国の非人道的な強権支配を暴くリークが相次いでいる。11月16日には、中国共産党が新疆ウイグル自治区のイスラム教徒約100万人に対して組織的に行っている洗脳や予防拘禁のおぞましい実態が、403ページに及ぶ機密文書の漏洩で明らかになった。

 11月20日には、香港の英国総領事館元職員・鄭文傑(サイモン・チェン)氏が今年8月、中国当局によって拘束・監禁された際に受けた殴打や睡眠剥奪、自白強要など、執拗な拷問の生々しい詳細を自身のフェイスブックで明かしている。

 そして11月23日。豪メディアは、27歳の中国人男性、王立強(ワン・リーチァン)が防諜機関のオーストラリア保安情報機構(ASIO)に出向き、「私は中国共産党のスパイだった」と告白したことを一斉に報じた。王は情報提供と引き換えに政治亡命を求めていることも伝えられ、騒ぎは拡大している。

 王は翌24日、豪テレビ局ナイン・ネットワークの報道番組『60ミニッツ』に素顔で出演。同じ日にネット配信された『ヴィジョン・タイムズ』など複数の活字メディアでも、中国共産党による買収工作や脅迫行為がどれほど民主主義国家に浸透しているかを赤裸々に告白した。

 水面下では現在、王の身柄引き渡しを巡り中豪間で激しい攻防が繰り広げられているとみられるが、この段階で亡命申請者が素顔や身分を明かすのは異例中の異例だ。

美大生からスパイとして“就職”

 王立強とはどんな男なのか。

 1992年、福建省北西部の光沢県に一般的な中国共産党員の息子として出生した王は、幼少時から絵を描くのが得意で、安徽財経大学の文学芸術メディア学部に進学し油彩画を専攻。全国規模の絵画コンクールで複数回、入選する実績も残したという。

 在学中に中国共産党の情報工作員と接触し、“スカウト”された王は、卒業後もアートの道に進むことはなく、スパイとして香港と台湾で諜報活動に従事。香港の民主化運動の妨害工作や、台湾の統一地方選などでメディアコントロール、世論操作などに関わってきた。

「スパイは大学新卒のあなたにとって魅力的な職業だったのか」との問いに、王は「洗脳されていたのかもしれない。祖国への奉仕……ためらいなどなかった」と曖昧に答えている。

 思想背景などスパイの資格審査をパスした王立強は2014年から、香港上場の投資会社、中国創新投資(CIIL)と中国趨勢控股(チャイナトレンズ)で諜報活動に関わっていく。この2社の実態は、軍事作戦指揮や安全保障のための諜報活動を担う解放軍の中枢機関、中国人民解放軍総参謀部(現・中国共産党中央軍事委員会連合参謀部)の直轄という。

 王は「CIILに派遣されると、直ちに56歳の向心(シァン・シン)会長と50歳のゴン青(ゴン・チン。「ゴン」の漢字は、「龍」の下に「共」)夫人の知己を得て、夫人が趣味で楽しむ絵画のマンツーマン指導も請け負った。そもそも『向心』は偽名で、本名は向念心。向心も妻のゴン青も、ともに中国共産党の高級スパイだ!」と明かす。

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最終更新:12/3(火) 12:06
文春オンライン

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