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半沢直樹だけじゃない! 池井戸潤原作『七つの会議』八角民夫(野村萬斎)の“倍返し”<ザテレビジョンシネマ部>

2019/12/3(火) 7:00配信

ザテレビジョン

汗水たらして働く市井の人々の葛藤や絆を軸に、巨大企業が抱える矛盾をミステリー仕立てで暴いていく痛快エンターテインメント作品を数多く生み出してきた人気作家、池井戸潤。『半沢直樹(2013)』の半沢直樹をはじめ、『下町ロケット(2015~2019)』の佃航平や『陸王(2017)』の宮沢紘一、『ノーサイド・ゲーム(2019)』の君嶋隼人ら、池井戸原作のTVドラマの主人公たちに共通するのは、弱き立場に置かれながらも仲間と共に戦う“一大逆転劇のヒーロー”であることだ。

【写真を見る】「グランメゾン東京」で話題の朝倉あきが“探偵役”のOL・優衣で出演

上記の4作品全てで演出を務めた福澤克雄が、映画では初めて池井戸原作を監督した『七つの会議(2019)』(12月7日夜8:00 WOWOWシネマ)で、野村萬斎演じる“居眠りハッカク”こと八角民夫も、その熱き主人公たちの系譜に連なっている。

大企業ゼノックスの子会社である中堅電機メーカー、東京建電。緊迫感みなぎる会議中でも平気で居眠りをする、典型的な昼行燈な社員である営業一課の万年係長の八角は、ある日、日頃の鬱憤を晴らすかのごとく営業一課の課長、坂戸(片岡愛之助)をパワハラで訴え、坂戸に異動処分が下される。そんななか、坂戸の後塵を拝してきた原島(及川光博)が後任課長に着任。原島は怠惰で有給を取ってばかりいるのにクビにならない八角の存在が気になり、社内でドーナツ販売を企画するOL優衣(朝倉あき)と共に八角の身辺を探り出す。だが、やがて社に隠された巨大な陰謀が浮かび上がり……というストーリー。

原作は全8話から構成される連作短編小説集だが、映画版では萬斎扮するグータラな八角をキーマンに据え、及川演じる原島課長と朝倉扮する事情通の優衣に“探偵役”を担わせることで、映像作品ならではの伏線とその回収をよりドラマティックに展開させていく。不敵な笑みを浮かべる謎の男、八角の正体を原島&優衣コンビで暴きつつ、八角の真の狙いが明らかになるや、物語は怒涛のクライマックスへと一気に突き進むのだ。

まさに『七つの会議』というタイトルが示す通り、営業会議や御前会議を主戦場に、“結果が全て”の世界を生き抜く企業戦士たちの姿を通じ、働くことの正義や守るべき信念とは何かを観る者に突き付ける、企業犯罪エンターテインメント作品となっている。

物語のキーパーソンとなる営業部長役の香川照之をはじめ、親会社の社長役の北大路欣也や下請け会社の社長役の立川談春など、過去の池井戸原作ドラマに登場したアクの強い超豪華キャストが絶妙な配役で参加しているのも、『七つの会議』で注目すべきポイントのひとつ。顔の筋肉をフル活用して演技合戦を繰り広げてきた“濃い”面々が、本作においては一体どんな役回りを演じているのか、ぜひ注目してほしい。狂言や歌舞伎、落語といった日本の古典芸能の担い手と、ミュージカル・スターやロック・ミュージシャン、お笑い芸人らが“役者”として一堂に会し、映画の中で企業人として競い合う姿は圧巻だ。

『半沢直樹』をきっかけに社会現象ともなった“屈辱の土下座シーン”や「倍返しだ!」といった決めゼリフこそないものの、『七つの会議』で野村萬斎が演じる八角は、無精ひげで喪服のような黒いスーツを身にまとい、人を食ったような態度で社内をかき乱す。入社当初は誰もが一目置く敏腕営業マンとしてその名をとどろかせてきた男が、グータラ社員を装いながら、20年もの間、牙を研ぎ続けている理由とは……。

悪人とも善人とも判断がつかない独特のたたずまいの“萬斎版・八角”が、よもや『半沢直樹』にも負けず劣らずのアツい情熱を内にたぎらせているとは、観る人誰もが思うまい。八角は他のドラマで登場する、明快な池井戸作品のヒーロー像とはひと味もふた味も違う曲者だが、「ここに名物キャラあり!」と思わず喧伝したくなる魅力が彼にも間違いなくある。その最たるものが「イッヒッヒ」という八角特有の笑い方。これぞまさしく、伝統芸能と舞台、映像の分野を自在に行き来する、野村萬斎ならではの“奥義”とも言うべき技なのだ。

エンディングを彩る“ロックの神様”ことボブ・ディランの名バラード「メイク・ユー・フィール・マイ・ラヴ」は、さながら闘い終わった企業戦士たちへの鎮魂歌というべき役割を果たしている。勧善懲悪の池井戸作品でお馴染みなパターンを踏襲しながらも、どこか煮え切らない思いに駆られてしまうのは、たとえ映画で不正が明らかになったとしても、“日本全体が抱える矛盾や闇が完全には消え去ることがない”という現実に直面させられるからに違いない。

■ 文=渡邊玲子

インタビュアー・ライター。「DVD&動画配信でーた」「キネマ旬報」「nippon.com」などでインタビュー記事やレビューを執筆中。国内外の映画監督や役者が発する言葉に必死で耳を傾ける日々。(ザテレビジョン)

最終更新:2019/12/3(火) 7:00
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