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入院費を払えない…「中国人患者」の例でみる医療業界の現状

12/4(水) 9:00配信

幻冬舎ゴールドオンライン

右肩上がりに増えていく訪日外国人。インバウンド需要に日本全体が活気に湧く一方、医療業界では、「医療費の未払い」が問題になっていることをご存知でしょうか。都立墨東病院で循環器内科医として働く大橋浩一医師が、実際の体験をもとに解説します。

入院日数を減らし費用を削減しようとした中国人患者

筆者が勤務する都立墨東病院には、昼夜問わず多くの外国人患者が訪れる。循環器内科医としての日常診療の傍ら、華人である筆者のもとには、緊急での中国語通訳の依頼が来る。本記事では、先日あった事例を紹介したい。

患者は60歳代の女性で、路上で意識を失い当院の高度救命救急センターへ搬送された。完全房室ブロック(脈が非常に遅くなる不整脈)による失神と診断され、脈を回復させるため一時的ペーシングという機械が挿入されたあと、意識を取り戻した。しかし、引き続きペースメーカーの植込み手術を行う必要があった。

この女性患者の娘は、10年以上前に仕事のため中国から来日し、日本人男性と結婚。永住権を獲得していた。現在は仕事をしながら子育てと家事に追われている。娘を手伝おうと、中国から母親である患者が定期的に来日するようになり、今回も1週間前から滞在していたという。娘の不在の間に買い物をしようと外出し、路上で意識を失い倒れたところを発見・救急搬送されて、一命を取り留めた。

今回の治療では300万円ほどの支払いが必要となる。しかし、彼女は日本で使える医療保険に加入していなかったため、この費用がすべて自費になってしまう。「娘1人では支払えない」とのことだった。

都立病院の場合、このような経緯で発生する未払い分の赤字は、都民の「税金」で補填される。そのため、未払いは極力抑えようとするのが一般的だ。

筆者は、中国語でペースメーカーの必要性と植込み後の注意点を説明したあと、必要になる医療費について補足した。すると患者本人が、「ペースメーカーを植え込んだらすぐに退院する」と言い出した。機械本体の費用と最低限の入院費だけであれば払えるそうだ。

確かに入院日数を減らせば入院費が抑えられる。しかし、ペースメーカーが体外に露出する危険性や、そこからの感染・出血のリスクがありとても危険である。何より、植込み直後にペースメーカーが機能不全になる可能性もあり、この患者の場合そうなると致命的である。中国語で丁寧に説明すると入院の必要性をよく理解したようだったが、患者の娘は顔を曇らせて帰って行った。

翌日病室を訪ねると、娘が日本人のご主人に相談し、入院費の支払いを快諾されたということであった。結局手術を施行し、経過観察後に退院して、中国の病院でフォローアップを受ける方針となった。

筆者達は可能な限り安価な機種を選択し、合併症が起こらないように細心の注意を払ってペースメーカーの植込みを行った。中国の病院宛の診療情報提供書を持って1週間後に退院となった。

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最終更新:12/4(水) 9:00
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