ここから本文です

病院もろとも総倒れ?医師の相続「換金できない資産」で大混乱

2019/12/6(金) 13:00配信

幻冬舎ゴールドオンライン

いつの時代もなくならない相続トラブル。特に開業医の相続の場合は、「子が医師か否か」によって、承継する資産が大きく異なります。そこで本記事では、井元章二著『相続破産を防ぐ医師一家の生前対策』(幻冬舎MC)から一部を抜粋し、医療法人の相続の難しさを取り上げます。

医師一家には「医師が持たないと無意味な財産」が多い

開業医の相続で起きやすい問題として、「医師である子と非医師である子との間で、遺産分割に偏りが出やすい」ということが挙げられます。

医療法人が持つ資産は、医師である子が持たないと意味のない資産が多くあります。持分あり医療法人の財産権である「出資持分」にしても、病院の設備や機器にしても、非医師の子がもらっても使い道がありません。そのため、どうしても医師の子の遺産分割が多くなる傾向にあります。

すると、非医師の子は「なぜ同じ兄弟なのに、自分は少ししか遺産をもらえないのか」と不満を抱きやすくなります。事前に親が事情や理由を説明し、非医師の子に納得させていればいいですが、何の説得もなしに一方的に少ない遺産を押し付けられたら、たいていの子は反発します。

医師の子がもらう「出資持分」は換金できない

相続では、法定相続人に遺留分が認められています。法定相続人とは、法的に相続する権利を持つ人です。遺留分とは、法定相続人の権利を保護する目的で、「最低限これだけはもらえる」という遺産の割合を決めたものです。

医師の子と非医師の子で、もらう遺産の額に10対1の偏りがあるとなると、非医師の子は相続の権利を大きく侵害されていますから、遺留分の請求をすることができます。これを「遺留分の減殺請求」といいます。

すると、医師の子は自分の財産から、非医師の子の遺留分を満たす分だけお金を渡さなくてはなりません。相続税を多くもらった者から少なくもらった者へお金を渡し、遺産分割の偏りを少なくすることを「代償分割」といいます。

「医師の子はいっぱい遺産をもらったのだから、非医師の子にあげるのは当たり前。それくらいのお金はもらっているでしょ」と思うでしょうか。実は、ここに落とし穴があります。

医師の子がもらう遺産というのは大半が出資持分で、これは換金できません。また、医療機器や病院の土地建物などがあったにせよ、これらは基本的に法人の持ち物になっていますから、子の自由にはできません。

そもそも代償分割というのは、多くもらった相続人が〝本人のポケットマネー〟から支払わなくてはなりません。「相続でもらった財産から代償金を払えばいいや」と思うかもしれませんが、それは故人のお金であって、本人のポケットマネーではないので、代償金としては使えないのです。その結果、遺留分を支払いたくても支払えないという事態が起こり得ます。

開業医の相続では、「遺産分割の偏り」で揉め、「代償分割ができないこと」で決着が遠のきます。つまり、遺族間で遺産相続バトルが起こってしまうと、十中八九、丸くは収まりません。

日医総研ワーキングペーパーの「医業承継の現状と課題(2019年1月8日)」によると、後継者不在の「無床診療所」は89.3%、「有床診療所」は86.1%となっています。小規模の医療機関の8~9割が後継者不在の問題を抱えているのです。

医療法人の承継は、原則として承継する相手が医師免許を所有していなくてはなりません。これが後継者の確保を難しくしています。

今は医学部の競争率が上がり、医師の子だからといって簡単には医師になれない時代です。また、医学教育の「2023年問題」もあります。2023年以降、医学部の教育システムやカリキュラムが変わります。日本の医師の臨床スキルを国際基準に合わせるために、学部生のうちから臨床実習を増やし、実技を評価するようになります。

簡単にいうと、〝医学部を出てすぐに現場で活躍できる医師〟だけを選りすぐって社会に送り出すしくみです。これにより、医大や医学部に入っても医師になれなかったり、医師になるのにこれまで以上に時間がかかったりする学生が増えることになります。

こうした流れから、今後さらに「子を後継者にしたくてもできない」という開業医が増えることが予想されているのです。

1/3ページ

最終更新:2019/12/6(金) 13:00
幻冬舎ゴールドオンライン

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事