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柄本佑、前田敦子、三浦透子出演の「素敵なダイナマイトスキャンダル」はもうひとつの「全裸監督」だ! <ザテレビジョンシネマ部>

2019/12/6(金) 7:00配信

ザテレビジョン

2019年に作られた数多い映像作品の中で、とびきりの話題作のひとつに挙げられるのが、Netflixで全世界配信されている武正晴総監督の『全裸監督』(全8回)だろう。80年代、“ビニ本の帝王”から“アダルトビデオの帝王”へと駆け抜け、「ナイスですね!」の決めゼリフとともに世間を騒がせたエロの巨匠、村西とおる。彼の破天荒な生き様を山田孝之が快演(怪演)し、バブル景気に向かう日本社会を巻き込んでの狂騒の日々を描く。

【写真を見る】成人向け雑誌のカリスマ・末井昭の妻を前田敦子が演じる

本作は70年代後半から80年代にかけての米ポルノ業界を背景にしたポール・トーマス・アンダーソン監督の『ブギーナイツ(1997)』や、ポルノ雑誌「ハスラー」の創刊者を描いたミロス・フォアマン監督の『ラリー・フリント(1996)』の日本版という声が多く挙がっているが、それも当然にして納得と言える面白さだ。

だが、ここで注目! このドラマ作品に先駆けて、もうひとつの『全裸監督』と呼べる傑作が2018年に発表されていたのである。それが伝説のカリスマ雑誌編集長、末井昭の波瀾万丈の半生を映画化した冨永昌敬監督の『素敵なダイナマイトスキャンダル』(12月21日夜10:00 WOWOWシネマほか)だ。主人公、末井を演じるのは柄本佑。70年代から80年代にかけて、カルチャー・エロ雑誌出版のハチャメチャな隆盛期を描いた業界実録ものであり、特濃かつ異色の青春映画でもある。

現在は主にエッセイストとして知られる末井昭は、奇しくも村西とおると同じ1948年生まれ。ただ2人の活躍時期にはズレがある。村西がセールスマン上がりという出自で、ビジネスの鋭い才覚を発揮しながらバブルとともにキャリアの頂点を迎えたのに比べ、末井の出自はサブカル文化系。彼が本領を発揮したのは70年代のアングラ・カルチャーを背景としたフィールドであり、ピカピカした80年代に入るとむしろ勢いは失速していった。つまり末井と村西はエロの巨匠としてのピークが交差しているわけで、それは両者の作品のカラーの違いにも反映している。

かつて末井昭が編集長としてセルフ出版(現・白夜書房)で手掛けた「NEW self」(1875年創刊)、「ウィークエンドスーパー」(1977年創刊)、「写真時代」(1981年創刊)などは、エロ雑誌の看板を掲げつつ実質的にはコアなサブカル雑誌だった。

あらゆるカルチャーを接続させる何でもアリの自由な方針で、発禁の憂き目にしばしば遭いながらも先鋭的な特集や記事をエネルギッシュに展開。誌面に登場したのは写真家のアラーキーこと荒木経惟や森山大道、イラストレーター&エッセイストの南伸坊や安西水丸、美術家&作家の赤瀬川原平、編集者&作家の嵐山光三郎、作家の田中小実昌、評論家の平岡正明や上野昻志、現代美術家の秋山祐徳太子、ミュージシャンの三上寛や巻上公一(ヒカシュー)、漫画家の赤塚不二夫や岡崎京子、あのタモリまで! まさに当時の文化人オールスターズといった趣で、今となっては「こんな大物までエロ雑誌に出ていたのか!」と驚かされる豪華な顔触れである。ちなみに「ウィークエンドスーパー」のネーミングは、ジャン=リュック・ゴダール監督の『ウイークエンド(1967)』が元ネタ。これだけでも末井の出自や個性がよく分かる。

また『素敵なダイナマイトスキャンダル』では、音楽家&文筆家の菊地成孔が荒木経惟役を演じるワンシーンがある。この当代きってのカルチャー・セレブである菊地本人がアラーキーの真似をしている――といった二重性をあえて前面に出したゲスト出演の楽しさも見ものだ。

この映画では、本人いわく“僻地”の出身で、カネもコネもなく、学歴も当てにできなかった末井青年が、名立たる猛者たちの中でひょうひょうと自己実現の階段を駆け上っていく過程がワクワクした高揚感とともに描かれる。それが前半の展開で、実は後半はトーンが変わるのだ。前半が“青雲立志篇”だとするなら、後半は“黄昏流星篇”とでも呼べるだろうか。

本作の直接の原作になったのは、末井が34歳の時、1982年に発表した同名自伝だ。「お母さんは爆発だ」という刺激的かつユーモラスな章タイトルで始まるこの名著「素敵なダイナマイトスキャンダル」は、末井にとって最初の著書であり、当時は北宋社より刊行された。やがて角川文庫にもなり、現在はちくま文庫から発行されている。

そして“裏の原作”といえるのが、講談社エッセイ賞を受賞した末井の2013年発表の『自殺』(朝日出版社)である。こちらは内省的な筆致の内容(末井の言葉を借りれば「ドヨ~ン」とした気分)で、主に映画の後半のトーンを決定づけている。そんな“光と影”のコントラストこそが映画『素敵なダイナマイトスキャンダル』のキモであり、味わい深さだ。狂乱の馬鹿騒ぎと、祭りのあとの寂寥。陽から陰への転換に際してのキーパーソンとなる“ある女性”役の三浦透子が素晴らしい。

もちろんここに『全裸監督』を接続させれば、日本社会の秘部を滑走していくクロニクルとしてさらに味わいが増すだろう。ナイスですね!の天才怪人伝と、異能文化人のステキな爆発。ぜひ併せて楽しんでいただきたい!

■ 文=森直人

1971年和歌山生まれ。著書に「シネマ・ガレージ」など。近刊「フィルムメーカーズ 大林宣彦」(宮帯出版社)にも執筆参加。(ザテレビジョン)

最終更新:2019/12/6(金) 7:00
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