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欧米の思惑・中国の情勢に翻弄される、日本のエネルギー政策

2019/12/7(土) 7:00配信

幻冬舎ゴールドオンライン

日本の電力システムの要である石炭火力は、欧米から投資回収できない「座礁資産」と位置づけられ、原子力発は世界的に持続懸念があり、LNGは中国需要に翻弄されるリスクが心配されます。今、日本のエネルギーセキュリティが直面する問題について解説します。本記事は、日本総合研究所が執筆した『エナジー・トリプル・トランスフォーメーション』(エネルギーフォーラム)より一部抜粋し、次世代の新しいエネルギーシステムについて考察します。

欧米金融界が仕掛ける石炭火力の「座礁資産」論

EUの政治的意図もあり、金融界では石炭火力を投資回収できない座礁資産と位置付ける動きが広がっている。座礁資産は、オックスフォード大学のスミス企業・環境大学院の環境規制が企業資産に与える金融的インパクトを図る取り組みのなかで打ち出された概念である。

2008年に同大学院を創設したマーチン・スミス氏は、数人のパートナーとともに投資銀行を設立し、その投資銀行をアメリカの投資銀行DLJ(のちにクレディスイスにより買収)に売却して巨万の富を稼いだ人物である。その人が環境分野で政策と企業と世界有数の大学を結ぶ大学院の創設を構想し、資金を提供した。

現在、スミス企業・環境大学院のファイナンスプログラムのディレクターは気候変動に関わる投資銀行の出身であり、ロンドン・シティの投資銀行、年金基金がこの概念に飛びついて、EUの金融界に浸透した。

金融は、中長期のリスクを予測し、リスクに応じて収益源を見つけるビジネスである。政策当局としては、環境問題をリスクとして提示し、金融界の対応を促すことで、経済の健全な成長や金融システムの安定化に資することができる。2017年に中央銀行、財務省、金融監督当局が参加する金融安定理事会(FSB:Financial Stability Board)が、金融システム安定性の観点から気候変動リスクに注目し、企業に気候関連の財務情報開示を促す報告書が公表され、銀行などが着目するようになった。

この動きを主導してきたイングランド銀行カーニー総裁は、気候変動は洪水や暴風雨などの物理的リスク、気候変動に伴う訴訟リスク、低炭素社会への移行に伴う金融システムの安定性へのリスクを伴い、多くの化石燃料関連資産向け融資が座礁資産化するとの考えを表明している。気候変動のリスクシナリオを想定し、金融資産の損失規模を評価するストレステストにも言及した。

カーニー総裁は、ゴールドマンサックスで投資業務に携わった経歴を持ち、座礁資産論を含め、化石燃料の発電から早期に再生可能エネルギーに転換する金融スキームを推進するという考えを持っている。イギリス政府の低炭素化の方針だけでなく、投資銀行家にもなじみやすい考えが背景にある。

ESG(環境・社会・ガバナンス)を追い風に、欧州発の座礁資産論は世界中に及びつつある。気候変動リスクを見極め投資先が座礁資産と可能性を評価すること、再生可能エネルギーへのシフトを加速させてイノベーションを起こすことを目的に、政策と金融界の戦略が密接に絡み合い、座礁資産論が勢いを増す構造がある。アメリカのトランプ大統領は、欧州の戦略を否定しているが、その勢いは世界に大きな影響を与えつつある。

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最終更新:2019/12/7(土) 7:00
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