ここから本文です

余命わずかな30代女性のホスピス暮らし描いた感動作に作者が込めた、亡き母への思い

2019/12/8(日) 18:00配信

週刊女性PRIME

 33歳で余命を告げられた雫。彼女は残りの日々を瀬戸内海のホスピスで過ごすことに決めます。そこでは、入居者がもう1度食べたい思い出のおやつをリクエストできる「おやつの時間」がありました……。

【写真】自身の「思い出のおやつ」について語る小川さん

知らないことによる「死」の怖さ

 小川糸さんの最新作『ライオンのおやつ』は生と死、そして「食べること」を見据えた静かな感動作。

「この作品を書くきっかけになったのは、母ががんで余命を宣告されたときに、“死ぬのが怖い”と言ったことです。私にとって、それがとても驚きだったんです。

 私は母に“誰でも死ぬんだよ”と話したのですが、世の中には母のように死を恐れている人は多いのだろうなと思いました。

 誰にとっても死というのは未知の体験ですし、そこには知らないことによる怖さとか、何が起こるんだろうという不安、そしてもちろん、身体の苦痛もあるし、心の痛みというのもある。

 もっとこうしたかった。これができなかった……悲しみとか後悔とかすごくたくさんそういうものがあると思うんです。でも、亡くなったからって、その人が消えてなくなるわけじゃない。

 私も、母が亡くなってからのほうが身近で、常に一緒にいるような感覚があります。死は悲しみや喪失感だけでなく、逆にもたらしてくれるものもあるのだなと」

自分だけでは癒せない不安や恐怖

『ライオンのおやつ』の舞台であるホスピスは、「ライオンの家」といい、マドンナという女性が取り仕切っています。

 ホスピスでは、人生でいちばん楽しかったときを描いてくれる似顔絵セラピーさんや音楽セラピーを行うカモメちゃん、そしてセラピードッグの役割を果たす六花(ろっか)などが雫の心を癒します。

「死への不安や恐怖って、自分だけでいてもなくすことはできなくて、誰かがいて寄り添ってくれるときの体温であったり、六花のぬくもりや、可愛い仕草とか、そういうものでしか癒されないのかなと思います。死を前にした人にとって、それはとても必要なものじゃないのかな」

 舞台はホスピス、33歳の女性が死んでしまう……というと重苦しい物語のようですが、『ライオンのおやつ』は優しいユーモアにあふれています。ホスピスの入居者たちも個性あふれる面々でわがままだったり、ひょうきんだったりします。

「死をテーマにするというと、どうしても重々しかったり、湿っぽいようなものになりがちなんですけど、そうではなくて生きている喜びのほうに光が当たるような作品にしたいなと思って注意して書きました。

 最初、ホスピスというのは、整然と淡々として自らの死を受け入れて人々が死んでいく場所だと思っていたんですけど、ターミナルケアの先生にお伺いしたら、たとえホスピスに来たからって、運命を受け入れられなくて、じたばたする人もいるし……ということをお話してくださって、ああそうなんだな、と。

 確かに、余命宣告はされたとしても、それでもまだ残りの人生というのはあって、そこには日常的な喜怒哀楽もあるんですよね」

「ライオンの家」の入居者がリクエストするおやつはさまざまです。カヌレ、豆花、アップルパイ、ミルクレープ……。

「この人だったらこれかな? っていうのは自然に決まっていきました。ただ、本が出てからいろんな方に思い出のおやつを聞く機会があって、書店員さんですとかサイン会に来てくださった方のおやつのリクエストを聞いていると本当にいろいろなおやつがあって。

 そういえば、本の中にしょっぱいおやつが出てこなかったなあと思いました。選択肢としてこれもあったのかなあ……なんて」

1/2ページ

最終更新:2019/12/9(月) 16:51
週刊女性PRIME

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事